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そんなはずはない。
気づいた時には超えていた。
決して踏み込んではならない領域へ。
尾嵜康夫は目覚めた。
いつもよりも少しだけ、すっきりとした朝だった。
すっきり、というよりも目が冴えただけと言う方が正しいかもしれない。
彼はいま、窮地に立たされている。
いつものように、洗面所で顔を洗う。
給湯器が故障しているため、水で顔を洗わなければならなかった。
この時期は特にだが、水の冷たさが顔を刺した。
ごわごわのタオルで顔を拭いてから、洗面台の鏡と向き合った。
少しやつれたか、と言いたいところではあったが、そうでもないということを、この顎の肉が語っていた。
わざとらしいほどの大きな深呼吸をして、彼は意を決した。
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