Over 80

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そんなはずはない。 気づいた時には超えていた。 決して踏み込んではならない領域へ。 尾嵜康夫(おざきやすお)は目覚めた。 いつもよりも少しだけ、すっきりとした朝だった。 すっきり、というよりも目が冴えただけと言う方が正しいかもしれない。 彼はいま、窮地に立たされている。 いつものように、洗面所で顔を洗う。 給湯器が故障しているため、水で顔を洗わなければならなかった。 この時期は特にだが、水の冷たさが顔を刺した。 ごわごわのタオルで顔を拭いてから、洗面台の鏡と向き合った。 少しやつれたか、と言いたいところではあったが、そうでもないということを、この顎の肉が語っていた。 わざとらしいほどの大きな深呼吸をして、彼は意を決した。
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