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「二部屋、どっちも使ってもらって構わないわ。タンスとかはこのままでいいかしら?中味は空にするけど」
「おばさん、夜はちょっと怖くない?」
晴美さんが聞いた。
「お向かいには文学館があるし、無人の家も多いから寂しいかも。でも人の住んでる家は何件もあるのよ。ここだって住んでたんだから」
「そうよ、石段をタタタン、と降りたら町の真ん中じゃないの。ちょっと行けばコンビニだってあるし」と沙織さんが言い添えた。
「一階はどんな風に使わせてもらったらいいんですか?」
「寝間だけは開けといて。私が泊まるときに使うから。お母さんが帰るかも知れないしね。あとは自由に使ってくれていいわよ」
「多田さん。私、ここに住みたいです。でも家賃のこと、聞いてもいいですか?」
「家賃?家賃ねえ。桃園さんは土曜日か日曜日、店番は頼めないかしら?それしてくれるのなら、家賃は要らないわ。水道代も要らない。ガス代も電気代も、全部要らない」
「本当に?でもそれじゃあまりにも厚かまし過ぎるような気が」
「一日アルバイトしてもらって一万円とするでしょ。月に四日だと四万円、こちらから払わなきゃいけないのよ。違うな。家のおもりまでしてもらうんだから、もっと払わなきゃいけないのか」
「おもりとか、そんなのは気にしないでください。私、使わせてもらう身ですから。じゃあね、平日、夕方しばらくだけでも店を開けさせてもらってもいいですか?近所の子どもたちが買いにくるかも。少しでも売り上げに貢献しなくちゃ」
「よし、それで決まり!」と沙織さんが声を上げた。
「桃園さん。土曜日と日曜日、どっちにする?」
「私はどっちでも」
「里美さんはどっちが都合いいの?」
「あたしは出来たら日曜日がいいんだけど」
「よし、じゃあね。桃園さんはこの家を無償で使わせてもらう。そのかわり土曜日はお店を開けて無償で店番する。時間があれば平日も店番していいけど、これは桃園さんの都合でどっちでも良しとする。電気代、ガス代、水道代は里美さん負担と。これでどう?お二人さん」
ゆかりは多田さんと顔を見合わせた。多田さんは笑顔になって握手を求めてきた。ゆかりは頭を下げて、差し出された手を握った。
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