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晴美さんの買い物が終わり、中華を食べて家に戻った。
ダイニングルームで甘いカクテルを飲みながら、テレビでスリーピー・ホロウを観ていると、沙織さんが帰ってきた。
「おかえり、早かったのね」と晴美さんが言ったのに続けて、
「お邪魔してます」とゆかりは挨拶した。
「あら、いらっしゃい。そっか、明日祝日だから。私も明日は休みなの、ビールあったっけ」
と沙織さんも椅子に腰を下ろして一杯やり始めた。
「桃園さん、どう?コンビニのアルバイトは」
と聞いてきたので、ゆかりはこの時とばかりに、コンビニの店長のことを話した。
晴美さんはとても不安な顔でゆかりの顔を見ていた。沙織さんはそんな娘の震える手をギュッと握ったまま、ゆかりが話し終わるのを待っていた。
「ゆかりさん、すぐに辞めなきゃ駄目よ。何かあったらどうするの?男って、助平とかそんな可愛い言葉では言えないくらい、ドロドロした化け物なのよ!」
沙織さんの激しい口調に、この人も何か嫌な思い出があるのね、とゆかりは強いシンパシーを感じた。
「でも働かないと。このままだと家賃が払えなくて」
「そっか、家賃ねえ。家に来る?って言いたいけど、そんな部屋ないしねえ」と、頬杖をついた沙織さん、何を思いついたのかパッと目を輝かせて、
「あー!」と声を出した。
「 どうしたのよ。何か変なこと思いついたんでしょ」と晴美さんが言った。
「馬鹿、何が変なことよ。ゆかりさん、ひとつ部屋、あるわよ!友だちの家なんだけどね、凄く安くしてもらえると思うよ。商売じゃないんだから」
「どこなの?友だちって誰?」
「うん。多田里美さん、ついさっきまで一緒だったの」
「あれ?デートじゃなかったの?」
「残業になったって、ドタキャンされたのよ。で、里美さん誘い出して、いつもの店にいたんだけどね。そうそう、ひと部屋あるわよ!」
「詳しく教えてください!」
「多田里美さんというのは六十歳くらいかな。前の会社で仲良くなってね、今でもちょくちょく会ってるのよ。で、里美さんの実のお母さん、ひと月ほど前にホームに入れたんだって」
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