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「—————?」
雪だ…。
見渡す限り、雪が降っている…。
さっきは晴れていて、月まで見えていたのに。
しんしんと大粒の雪が降り続く。
しかし寒くない。
冷たくもない。
ーーーこれは、夢?
俺は月明かりも星灯りもないのに、ほんのりと明るい雪の中を進んでいった。
と、茅葺屋根の家に行き当たった。
祖父ちゃんの家?
いや、違う。
祖父ちゃんの家だったら、ちゃんと雪が履かれているし、灯りがついているし、大根とイカの煮つけの匂いもするし。
「……うまかったな。大根。ちょっとしょっぱかったけど……」
呟きながらも、足は止まらない。
止めることができない。
そのまま前進し、誰が住んでいるかもわからない茅葺屋根の家に吸い込まれてく。
ドアを開ける。
「………、………!………っ」
中から低い話し声。
「ああっ…!!ぐ、ああ!」
いや、悲鳴?
「……っ、あ……。うう……ん」
否、喘ぎ声…。
ーーーー見てはいけない。
誰かが忠告する。
しかし俺の身体はとっくに自由を失っている。
俺のものとわかる手が、障子の溝に指を掛ける。
一気に右に開け切る。
「………………」
初めに飛び込んできたのは、白い身体だった。
女?
いや男か?
よくわからない。なぜなら―――。
その体は無数の巨大な黒蜘蛛に覆われていた。
「————うわ……!」
思わず悲鳴を上げた俺を、その彼女だか、彼だかわからない人物が見上げた。
その桜色の唇が、ゆっくりと動く。
タ
ス
ケ
テ
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