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「昨日はよく眠れたか?」
朝食の納豆をかき回しながら、祖父である泰造は、こちらをチラリとも見ずに言った。
「眠れた、と思う」
泰造と同じく、これまた真新しい箸で納豆をかき混ぜつつ、俺は頷いた。
「なんだ、“思う”とは」
泰造がそれを湯気が立つご飯にかける。
「………なんか変な夢を見た気がする」
俺もそうしながら、母親が納豆嫌いのため、久々に嗅ぐその胃袋をそそる匂いに、夢中で箸を突き刺す。
「変な夢?」
泰造が、昆布巻きに伸ばしかけていた箸を止めてこちらを見る。
「どんな夢だ…」
「ん-?忘れた」
嘘ではなかった。本当に目覚めた瞬間、忘れてしまった。
忘れてしまったが―――。
多分、エロい夢だった。
なぜなら起きた瞬間、いつもはそこまでにならない自分のそれが、腫れあがるほどに硬くなっていたからだ。
「ーーー蜘蛛の夢ではないだろうな?」
泰造が眉をしかめる。
さすがに蜘蛛で勃ったりはしない。
「違うよ」
笑うと彼は安心したように頷き、あおさのりが浮いた味噌汁を啜った。
ちらりとテレビを見る。
もちろんDVDプレーヤーはない。そもそも自慢のコレクションがないここじゃ、役には立たないが。
携帯電話で動画を見るしかないか。
しかし―――。
座布団脇に置いてある携帯電話を見下ろす。
(電波が頼りないんだよな…)
先ほどから1本立ったり2本立ったりしているアンテナを睨む。
(そもそも祖父ちゃんと一緒にいて、布団も並べて寝てんのに、抜くチャンスなんてあんのかな…)
「ーーー今日から3日間、留守にする」
いきなり飛び込んだチャンスに笑いが込み上げる。
「留守にするが、ちゃんとお前は明日から、学校に行けよ」
泰造は言いながら白菜の浅漬けをボリボリと齧った。
「今日のうちに、場所くらいは確認しておけ」
「わかった」
「何か困ったことがあったら組合長を頼れ」
「へーへー」
言いながら泰造がつけたという大根のビール漬を口に入れる。
「んまいか?」
泰造がやっとこちらを見て聞いた。
「旨いけど、酔っ払った」
言うと、
「んなわけあるか」
泰造は初めて笑顔を見せた。
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