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家主がいないことに僅かに違和感を覚えながらも、家に足を踏み入れた。 広い土間には、新聞紙が広げられ、白菜だの大根だのが、まだ土のついたまま無造作に積み上げられている。 板の間に置かれた段ボールからは、リンゴの甘い香りが漂っている。 俺は当面の食料を横目で見ながら、長靴を脱ぎ、慌てて揃えた。 やけに白く美しい障子を開け、居間に入る。 当たり前だが、テレビがあることにまず安堵した。しかもなんだか大きく真新しい。 昔ながらの対流式石油ストーブの上に乗ったヤカンが、カタカタと音を立てている。 さっき焼香したばかりなのだろう、立てられた線香から細く青白い煙が、太くむき出しの梁に向けてユラユラと昇っていく。 炬燵には籠が置かれ、ミカンがちゃんとヘタを上に向けて綺麗に並んでいた。 台所からは、イカと大根を昆布と醤油で煮たような、しょっぱい匂いが漂ってくる。 炬燵を見る。 座布団がちゃんと2つ並んでいて、そのうち1つは見るからに新品で盛り上がっている。 「………これは、鈍感な俺でもわかるぞ……?」 綺麗に並べられたミカン、準備された座布団、買ったばかりのテレビに、張り替えられた障子。 ふっと笑いが込み上げてきた。 不器用でそっけない祖父は、見た目以上に、いや、見た目より相当、孫の滞在を歓迎してくれているらしい。 その事実にホッとすると共に、わずかな罪悪感を覚えながら、俺は炬燵に入った。
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