あのロケットに乗ってエウロパの海へ

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「これは……人間の少女だよな?」  硬い氷層(ひょうそう)の洞窟の中で、肩に取り付けたサーチライトを照らすと、氷に覆われた妖しくも美しい少女の裸体が浮かび上がった。 「冷静になろう、ここは木星磁場の影響が激しい。俺達は共鳴反応でなんらかの知覚障害を起こしているのかもしれない」 「とにかくこれが幻影なのか確かめる必要がありますね。映像撮影して航空宇宙局で分析してもらったほうがいいですね」  ここは地球から6億2800キロメートル離れた木星の衛星エウロパ。  マイナス160度の極寒の地に地球外生命探査のために派遣されたが、よもや人を発見するとは想像もしなかった。  そこで眠る少女にどこか懐かしい記憶の片隅をくすぐられる感覚を覚えた。  無意識にグローブをはめた手が冷たい氷壁に伸びる。  そっと触れるとかすかな鼓動が伝わってくるような気がした。 「ユリナ?」  遠い記憶の中で忘れ去っていた名前が呼び起こされた。そんなはずはない、彼女はすでにこの世界から消えている。  でもあの時の約束、彼女はまだ覚えているとしたら……  地響きとともに大きな轟音が宇宙服の音響センサーから伝わってくる。地表面の亀裂から噴き出す間欠泉の水しぶきの音だ。  生命の源である水、この衛星の地下深くには無限に広がる海がある。そこに宿る未知の可能性。  広大な宇宙には、人智の遥かに及ばない事象が存在するのかもしれない。
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