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「「すいませんでした」」
あえて職員室で、それも教頭先生の前で謝ろうと言ったのは御甲斐のアイデアだった。
あたしは目立ちたくないから内心イヤだったけど、珍しく頼むように言ってきたのでやることにした。
「うん、反省しているならいいよ。他の生徒にも迷惑になるから、もうああいう事はしないでくれ」
北方先生は、もうちょっとでおじいちゃんというベテラン教師で、昔はああやって一喝して生徒を叱っても大丈夫だったけど、今は問題行動になるからねと、やんわりと迷惑かけるなと言外に言われた。
教頭先生からもひと言言われたが、それはどちらかというと御甲斐への言葉のようだ。
「「失礼しました」」
職員室を出て教室への帰りの廊下、あたしは御甲斐に訊いてみる。
「ね、なんで転校してきたの」
「なんだよ急に」
「じつはね」
あたしは事情通というか噂話、おもに恋愛関係だが、それが好きなタカコから聞いた話をする。
「転校ってたいがい親の都合でするのよね、つまり転勤とか転職とかでね。ということは春か秋が定番なんだけど今は6月でしょ、だからなんかワケありなんじゃないかなって」
あたしの言葉に御甲斐はムスッとした顔になる。なんか怒らせるようなこと、また言っちゃったかな。
「ふぅ、こっちではおとなしくするつもりだったのにな」
「なに、なんかやらかしたの」
「──まあな、だから目立つワケにはいかないんだよ。今回の事は俺が悪かったから、もうしないようにするよ」
素直に認めた御甲斐の横顔にちょっとドキンとした。ただそれきり御甲斐は黙ってしまったので、何があったかは訊けなかった。
※ ※ ※ ※ ※
その後、御甲斐は自分の教科書が届いたのと授業に追いついたので、あたしとの席は離れて本来の定位置についた。
当然あたしとの会話が無くなったので、揉めることはなく、静かな授業風景が戻ってきたのだった。
御甲斐はわりと社交的で、すぐに男子の友達ができてクラスにとけ込んでいった。あたしはそれを見ながらホッとしたし、なんとなく、本当になんとなく、くどいようだが本当に本当になんとなく、寂しい気持ちにもなった。
※ ※ ※ ※ ※
「ねえ、御甲斐くん知らない」
「はあ、なんであたしに訊くのよ」
「だって心が世話役でしょ」
「それはもう御役御免でしょ。校内に何が何処にあるのかもう知ってるし、授業にも追いついてるし、部活は入ってないようだけど、タナカやスズキとも仲良くやってるし……」
「よく知ってるわねぇ、あ、さては気になってるの」
タカコがにやにやしながら顔を近づけてくる、この恋愛脳め。そんなことないもん。
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