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お節介の秘密
御甲斐が転校してきてから、ひと月経った頃、クラスに不穏な空気が流れ始めていた。
あたしは最初気がつかなかったが、タカコが教えてくれた。御甲斐が転校してきた理由は、前の高校でのイジメが原因だという噂が流れているそうだ。
「そんなばかな」
あたしには信じられなかった。あの御甲斐がイジメを受けているなんて考えられない、そんなヤツがあたしと話したり友達を作ったりするなんてありえない。
「イジメられていたんじゃなくて、イジメていたんじゃ……」
それも考えられなかった。言葉こそ乱暴な感じはするが、世話をしていた時の対応や友達と笑い合う姿からは、そんな陰湿な事をするなんて微塵も感じられない。それをタカコに言うと、
「やっぱ見てるじゃん」
と言われてしまった。
事の真偽は分からないが、噂が広がっていくのは感じた。なぜなら皆んながだんだん御甲斐と距離をとりはじめたからだ。
御甲斐もそれを感じてきたらしい、休み時間になると教室から出ていき、どこかで時間を潰して授業直前にもどって来るようになってきた。
※ ※ ※ ※ ※
ある日の昼休みだった。タナカが御甲斐の席により責めるように話しかける。
「御甲斐、おまえ、前の学校でイジメやってたのかよ」
「やってねぇよ」
タナカの言葉に、クラス全員がふたりに注目した。
「ウソつけよ、オレ、聴いたんだぞ、[転校生の子は問題起こしてませんか、またイジメに関わっていませんか]って教頭先生が言ってたのをよ」
「そんな事やってねぇ」
御甲斐は立ち上がってタナカの前に立ち、また肩を突きそうになったので、あたしは思わず間に入ってしまった。
「なんだよ御安、コイツをかばうのかよ」
「そうじゃないけど、御甲斐がイジメをやってたなんて考えられないじゃん、タナカだってそう思わないの」
「そ、そりゃ……、いや、でも教頭先生が言ってたのを聴いた以上、そう思えねぇ。御安だってそう思うだろ」
あたしは答えられなかった。知り合ってまだひと月でしかない、御甲斐の事を知ってるとも信じているとも言えなかった。
クラス中が緊張につつまれて、そのまま昼休みが終わり、午後からの授業がはじまった。
この時、何かしらの決着をつけるべきだったかもしれない。何も解決しなかったために、クラスの中になにかもやもやした空気が残ってしまったようで、なんとなく一触即発の事態になってしまっていた。
そして誰がやったかは知らないが、御甲斐の制服から検索して前の高校をつきとめ、そこでイジメの事件があったのは確かだと調べ上げてきた。
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