4人が本棚に入れています
本棚に追加
花はいつの間にか咲いている
聖真津州留高校の校門は敷地の北側にあり、校舎までは桜並木が植えられている。
毎年3月中旬から下旬頃に咲き誇り、4月にはすでに散っている。だから卒業式にも入学式にも咲いているシーンは無く、[見かけ倒しの桜並木]と呼ばれていた。
始業式からはや半月、受け持ちクラスの生徒である浅井結愛は早くも憂鬱な日々をおくっていた。
「どうした浅井、机に突っ伏して。なにか悩みでもあるのか」
「べつにー。先生には関係ないです」
顔もあげずに返事をする浅井に僕はピンと来た。これは恋の悩みだなと。となると先生の立場ではこれ以上深入りできない、そっと見守ろうと決めた。
「それならいいが。そういやまだ部活に入ってないな、早く決めろよ」
「はーい」
まったく入る気のない返事をされたが、無理矢理入れて早々に辞められてもしょうがない。下校時間だから早く帰れよと言って教室を出る。入れ違いに入ってきたのは同じクラスの村下孝だった。
「どうした結愛、疲れてるのか」
ユメ? 下の名前呼びだと?!
とっさに隠れて二人の会話に聞き耳をたてる。
「タカシー、きいてよー、レンアイってしなくちゃいけないのー」
「はぁ?! なんだそりゃ」
僕も心の中で同じツッコミをした。
その後の浅井の話を要約すると、早々に友達ができて(いいことだ)おしゃべりをするようになったけど、話す内容の8割方が男子と恋愛の話なのでついていけないらしい。
「そんなの無視すりゃいいじゃねーかよ」
「わかってないわねー、女子の会話は共感が大事なの、わかる~が絶対条件なのよ。けどあたしはレンアイにキョーミないから分かんないのよ、だから分かったふりして頷いてるんだけど、それが面倒くさいの」
「それこそめんどくせーな」
「こんな話、女子にはできないし、男子はもっとできない。くされ縁のタカシだから話してんの」
「小1から高1までずっと同じクラスだもんな。なんかの呪いかと思うよ」
「それはあたしのセリフだ」
──なんとこの二人はそんな仲だったのか、知らなかった。そういえば同じ出身校だったな。
だったら村下、チャンスだ。俺とつきあえよって言ってしまえ。カップル成立の瞬間に立ち会わせてくれ。
「なあユメ、だったらさぁ」
うんうん、いけいけ。
「俺と──」
よしいけ、つきあえよと言ってしまえ。
「──つきあったフリをしないか」
「はあ?」
はあ?
「なに言ってるの」
なに言ってるの?
「俺もちょっと助けてほしいんだよ。彼氏もどきして恋愛している感じを手伝うからさ、俺のことも手伝ってよ」
村下はここじゃなんだから外で説明するから帰ろうという。慌てて身を隠し、彼等をやり過ごした。
つきあってるフリをする? どういう意味だ?
追いかけて問いただしたかったが、さすがにそれはできない。
まんじりとした気持ちで職員室へと向かった。
最初のコメントを投稿しよう!