花はいつの間にか咲いている

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花はいつの間にか咲いている

 聖真津州留高校の校門は敷地の北側にあり、校舎までは桜並木が植えられている。  毎年3月中旬から下旬頃に咲き誇り、4月にはすでに散っている。だから卒業式にも入学式にも咲いているシーンは無く、[見かけ倒しの桜並木]と呼ばれていた。  始業式からはや半月、受け持ちクラスの生徒である浅井結愛(あさいゆめ)は早くも憂鬱な日々をおくっていた。   「どうした浅井、机に突っ伏して。なにか悩みでもあるのか」 「べつにー。先生には関係ないです」  顔もあげずに返事をする浅井に僕はピンと来た。これは恋の悩みだなと。となると先生の立場ではこれ以上深入りできない、そっと見守ろうと決めた。 「それならいいが。そういやまだ部活に入ってないな、早く決めろよ」 「はーい」  まったく入る気のない返事をされたが、無理矢理入れて早々に辞められてもしょうがない。下校時間だから早く帰れよと言って教室を出る。入れ違いに入ってきたのは同じクラスの村下孝(むらしたたかし)だった。 「どうした結愛、疲れてるのか」 ユメ? 下の名前呼びだと?!  とっさに隠れて二人の会話に聞き耳をたてる。 「タカシー、きいてよー、レンアイってしなくちゃいけないのー」 「はぁ?! なんだそりゃ」 僕も心の中で同じツッコミをした。  その後の浅井の話を要約すると、早々に友達ができて(いいことだ)おしゃべりをするようになったけど、話す内容の8割方が男子と恋愛の話なのでついていけないらしい。 「そんなの無視すりゃいいじゃねーかよ」 「わかってないわねー、女子の会話は共感が大事なの、わかる~が絶対条件なのよ。けどあたしはレンアイにキョーミないから分かんないのよ、だから分かったふりして頷いてるんだけど、それが面倒くさいの」 「それこそめんどくせーな」 「こんな話、女子にはできないし、男子はもっとできない。くされ縁のタカシだから話してんの」 「小1から高1までずっと同じクラスだもんな。なんかの呪いかと思うよ」 「それはあたしのセリフだ」  ──なんとこの二人はそんな仲だったのか、知らなかった。そういえば同じ出身校だったな。  だったら村下、チャンスだ。俺とつきあえよって言ってしまえ。カップル成立の瞬間に立ち会わせてくれ。  「なあユメ、だったらさぁ」 うんうん、いけいけ。 「俺と──」 よしいけ、つきあえよと言ってしまえ。 「──つきあったフリをしないか」 「はあ?」 はあ? 「なに言ってるの」 なに言ってるの? 「俺もちょっと助けてほしいんだよ。彼氏もどきして恋愛している感じを手伝うからさ、俺のことも手伝ってよ」  村下はここじゃなんだから外で説明するから帰ろうという。慌てて身を隠し、彼等をやり過ごした。  つきあってるフリをする? どういう意味だ?  追いかけて問いただしたかったが、さすがにそれはできない。  まんじりとした気持ちで職員室へと向かった。
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