花はいつの間にか咲いている

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 ──ここから先は、後日ふたりから聞いた話を僕の感想を織り交ぜながら記してる。  村下は校外活動でストリートダンスをしていた。中学の頃からやっていたそうだ。 「なかなか人が集まらなくてさ、ユメがいてくれたら注目されるかもしれないから見ててくれないか。  そのあと買い物だの食事だのすれば模擬デートになって、話のネタになるだろ」  村下はダンスに夢中で、こっちも恋愛に興味が無いようだった。しかしギブアンドテイクというか需要と供給というか、両者の補い合うものが一致したので浅井はオーケーと言ったそうだ。  ふたりは休日に待ち合わせをして名古屋に行き、村下のダンスを浅井が見物して、ファミレスにより感想を聞いたあと、買い物に行ったり映画を観たりしたそうな。 ──デートじゃん、ただのデートじゃん。  しかし当のふたりは互いに意識をしていず、お互いがお互いにつきあってるだけというつもりだったという。  そのうち変化がおきてきた。二人にではない、周りにだ。 「ねぇねぇ、ユメと村下ってあやしくない」 「わかる~、なんか二人の空気違うよねー」 「ふたりとも気にしてないけど、お互い名前で呼んでるよねー」 「あとなんかふたりだけのサイン? そんなのもしてるよねー」  たまたまラブコメセンサーが捉えた会話だ。  当時の僕は、なんだ、つきあうフリじゃなくて本当につきあっているのか。よかったな。と思うだけだった。  そしてこれにショックを受けたのは浅井だった。  架空の彼氏話の相手は村下でしょ、と友達の誰かに言われたらしい。その時はじめて村下を異性と認識したそうだ。  これを言ったときの浅井は、顔を真っ赤にして俯き身体をくねくねさせて居心地悪そうだった。 それを見て僕は心の中でのたうち回りながら、尊い、尊い、尊い、尊い、尊い、尊い、尊い、尊い、尊い、トゥトイ、トゥトイ、トゥトゥ、トゥトゥウォシュレットーー!! と叫んでいた。  浅井が意識したために、村下への接し方が変化する。恥ずかしそうにもじもじする姿を見るようになり、村下もまた異性として意識しはじめた。 「もうやめようか」 「……うん」  芽生えかけた愛──いやまだ恋の時期か。芽生えかけた恋は、周囲の悪気無い言葉と空気に晒され枯れようとしていた。  そしてふたりはそのまま休みに会うのをやめてしまった……。 ※ ※ ※ ※ ※ 「で、なんで結婚してるんだお前たち」  十年後の同窓会で、手をつなぎラブラブな状態で報告されて思わずツッコんだ。 「いやぁ、それがですね先生。示し合わせたわけじゃないのに、大学も就職先も一緒だったんですよ」 「もう笑うしかないわよね。[じゃあもう結婚するか]ってタカシが言ったんで、しちゃいましたー」 幸せそうに笑うふたりに良かったなと祝福した。 恋愛記録その1[浅井結愛と村下孝] ──のちの夫婦である。 ーー 了 ーー
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