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ラブコメってこうだよね
「心、ちょっと来てぇ」
クラスメイトの声のトーンで何で呼ばれたかを直感する、あたしはまたかと思う。
はぁとため息をついてから、席を立つと呼ばれた方に向かう。
「あのバカ、今度は何やらかしたの」
「3組の女の子同士のケンカ、それに仲裁に入って今は3人でもめてる」
女の争いに口を挟むバカがいるかっ。やれやれと思いながら、あたしは案内してもらって向かった。まったくどうしてこうなっちゃったんだろう。
7月のむし暑い空気が頬を撫でる、あのバカと出会ってそろそろひと月になろうとしていた。
あの日はたまたま夜ふかしをしてしまったので、遅刻しないように慌てて出かけたんだっけ。
※ ※ ※ ※ ※
「きゃい〜ん、遅刻、遅刻だぁ」
寝坊して時間がなくても、身だしなみだけはオンナノコとしてはやらなきゃと、衣替えしたばかりの夏服に袖を通し、洗面所でチェック。
「心、朝ごはんは食べないの」
「食べてる時間な〜い」
それでもなんか腹に入れてきなさいと、出かけの玄関でジャムを塗った食パン(八つ切)を一枚渡された。ジャム塗ってあったら食べるしかないじゃん。
あたしは走りながらそれを頬張った。はじめての夏服なのに、もう汗がしみ込もうとしている。
※ ※ ※ ※ ※
パンを頬張りながら走る女子高生、それがよほど珍しいのか、あたしが通り過ぎると住宅街の人々にざわめきが起きていた。もちろんあたしはそんな事に気にしている場合ではなかったからガン無視だ。
学校が見えてきた、あと二つ向こうの十字路を曲がってしまえばゴールまで一直線だ、間に合う、間に合うはずだった──。
「痛ってぇぇぇ」
──あたしは間に合うと思ってた、コイツにぶつからなければ。
「どこ見てんだよ、いきなり曲がってくるんじゃねぇよ」
「あんたこそ気をつけなさいよ、よそ見してたの見ているんだからね」
「しかたねぇだろ、この辺まだよく知らねぇんだからよ」
互いに尻もちをついた状態で口喧嘩している時間も惜しい、まだ言い足りないが遅刻しないほうが優先だ。まだなにか言いそうにな学生服男子を無視して、あたしは立ち上がり駆け出した。
「お、おい待てよ、まだ……」
聞く耳なんか持たん、お前なんか知るかーー。
※ ※ ※ ※ ※
「そんなわけでギリギリだったのよー」
あたしは自分の席に突っ伏しながら、前の席に座るタカコに話した。
「HR始まる前だったからセーフじゃん、とりあえず皆勤賞キープしたんでしょ」
「校門前で先生に捕まったから遅刻になるところだったのを、拝み倒して見逃してもらったの。完全無欠の皆勤賞じゃなくなったー」
記録上は無かったことになってるけど、あたしの記憶には残っている、心が完全無欠じゃないと言っているから口惜しくてしょうがない。
「あいつのせいだ、あいつにぶつからなかったら絶対間に合ったのにぃ」
思い返すと、見かけない学生服だったな。この辺りは、うちの高校しかないから変といえば変か。そういやこの辺をよく知らないって言ってたな。
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