カラフルなチケット

1/3
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

カラフルなチケット

 雨に濡れた冷たい手で、(アパート)のドアノブを回した。重い溜め息を連れて入り、ずぶずぶのスニーカーを脱いだ。湿った空気の中、小さなくしゃみ。  ビニール袋に入っている新聞紙を、ダイニングテーブルに放った。パーカーを椅子の背に掛け、壁のカレンダーを横目に見る。  今日で18歳。  灰色の厚い雲は、一日中雨を降らす予報だ。さっき自転車のタイヤで踏んだ、地面に散らばった真っ赤な茶梅(サザンカ)の花弁も、とうに汚くなってしまっただろう。  高校を中退した僕は叔父さんの気配りで雇われ、朝刊配りをするようになった。それから半年。もうすぐクラスメイトたちは卒業する。  服や靴下を全て洗面所で脱ぎ、部屋でスウェットに着替えると、もうひと眠りするためにベッドに潜り込んだ。  雨音は激しさを増し、押し潰されそうだ。朝6時。母さんがスーパーの品出しを終えて帰ってくるまで、あと3時間。それまでに少し止めばいいな。布団の中で意識は溶けてゆき、すぐに雨音も聞こえなくなった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!