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 夜のニュースでも、引き続き行方不明の女の子の事件を報道していた。  女の子は二週間前から行方が判らなくなっていたのだが、警察が誘拐の可能性を考慮して報道を差し控えていたので、公開が遅れたのだそうだ。  男は、夕飯の箸をとめてニュースに耳を傾けた。  男があの少女を家に連れ込んだのと、奇妙に時期が合致する。かえってそれが事件に対する男の興味と感心を引き立てた。  僕は大丈夫だった。だが、奴はやり過ぎてしまった。  想像ではなく、本当に女の子を強姦し、勢い余って殺してしまったのだ。  女の子を返してやらなかったから、こんなに世間の連中が騒ぎ立てるのだ。  子供に危害を加える大人を、世間は決して放っておかない。  警察は奴を捕まえて公衆の面前で制裁を加えるまで、その追及の手を緩めないだろう。  男は、あの少女がもしかして自分を告発しないだろうか、という可能性について考えてみた。  だがすぐに、そんな考えは振り払った。  なぜぼくが訴えられるというのだ。  あの子は僕の話を楽しんで聞いていた。  嬉しそうにクッキーと麦茶のおやつを食べ、決して怯えることなく母様の部屋で髪を触らせてくれた。  男は女の子が駆けて行った後ろ姿を思い返して、安心した。  紺色に大きな水玉模様。  茜色の夕陽、長い影、道の向こうで待っている誰か。  懐かしいような、それでいてひどくもの悲しさが付きまとう記憶の断片が、男の脳裏に瞬時、ひらめいた。  あの子を待っている誰かがいたんだろうか  男には思い出せなかった。  たった二週間前の事なのに、記憶はとても曖昧で頼りなかった。  疲れがたまっているのかも知れない。  今夜は、早く寝ることにしよう。  そう思って目を開けた時、目の端で何かが動いた。  振り向くと、笑う猫だった。  ただし、今はまったく笑っていない。  居間の入り口の敷居の向こう側から、糸のように細い目で男をじっと見つめている。  思えば、猫が目を開いているところを男はまだ見たことがなかった。  気味の悪い猫だ。  猫はまったく、ニヤリともしなかった。 「あっちへ行け! まったくなんて猫だ」  男はヒステリックに怒鳴った。  あいにく、投げつける物がなにもない。  もう一度、怒鳴りつけてやろうとした時、笑う猫は腰を上げた。そして、実にゆっくりと男に背を向けて、廊下の方へ消えて行った。  その余裕に満ちた物腰は男の不安をかきたて、男はなぜか落ち着かなくなった。
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