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今日も死ななかった
生活とは、呼吸が続く限りリピートする、目覚めと就寝のラリーだ。
瞼が持ち上がった先の視界に、黒髪に植わったつむじが見える。
カーテンの隙を突いて遮光しきれなかった明かりが漏れ出ている。朝の到来に歪んだ思考のままもう一度瞼を瞬かせて、目の前の頭に額を擦らせた。
規則的な呼吸に何度安堵を浮かべることだろう。
生暖かい女の体は俺の腕にしっかりと潜り込んでいて、命の音を聴かせているように見えた。
夏のこのクソ暑い室内でひっついている。
女のむき出しの肩をぼんやりとみつめて、また痣ができていることに気がついた。この謎の位置に痣を作ってくるのは、この一年でもう8度目だ。
いや、正確には335日の間で8度目。
つまり41.875日の頻度でケガを負っている。
うっかりなんていうレベルじゃないくらい傷を作ってくる女にほとほと呆れているが、本人はさして気にした様子もないから強く注意できずにいる。
指先でやわく触れてみる。特に何の力も入らない指先で触れて、特に治りもしないそれを見つめ直した。
「……うん?」
極力起こさないように触れたつもりが、その女は目を覚ましてしまったようだ。もぞもぞと動く髪が頬に触れた。
じっと見つめていれば、顔がこちらを向く。
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