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「あ、おは、よ?」
「はよ」
まだ寝ぼけたような疑問形だ。小さく笑ったら、同じように笑われる。きゅっと力のこもらない手で髪を撫でられて、簡単に俺の頬が緩んだ。緩んだ筋組織に女はまたふにゃりと笑っている。
「んん、もう朝来た」
「うん、そうだな」
「あー、仕事、つら」
「はいはい」
そんなことを言いつつ、いつだってこの部屋に俺を取り残して先へ行くくせに。苦笑して同じように頭を撫でてやれば、俺を撫でた手を取りやめて脇の間に腕を挟んでくる。
きゅっと抱き着かれて、頬に髪が擦れた。
「サナ」
「うーん」
「サナ、時間大丈夫かよ」
「何時ぃ」
「もう7時んなった」
「うへえ、やばいよ~、布団から出なきゃだ」
ぐすん、とか訳の分からない擬音を口遊んだサナを抱きしめ返して、腕の中から俺を見つめる黒い瞳を見やった。
もうしっかりと瞳に力がこもっている。サナはいやだいやだと言いながら、立ち上がって社会にエントリーできるから、強いと思う。
つい口をついて「休めば」と言えば、サナの頬がやわくとろけた。
「へへ」
「なんだよ」
「もう一回言って」
「はあ?」
「休んでも良いぞ~って」
「はいはい、行きたくないなら今すぐ電話かけて、休んだらいいんじゃないですか」
「え~、なんかさっきより言い方冷たいし」
「知らねえよ」
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