今日も死ななかった

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どうせ、何度引き留めたって行くだろ。俺の目を見て、頬に笑いを浮かべる女が脇から手を引き抜いた。鮮やかな速度のまま、頬を撫でられる。 「好きだよ」 「はいはい」 「今日も大好きだぞ~」 「わかったって」 毎朝のラブコールに苦笑して、撫でる指先を捕獲した。至近距離にある瞳に視線がぶつかって、もう一度「好き」と吐かれる。 どうしようもなく胸が熱くなって、全て胸の内に淀んだまま押し込めた。 「大好きなリッキーのために、やっぱがんばるかあ」 「貢ぎ癖、」 「うるさいです」 「はいはい」 サナはぱっと上体を起こして、ベッドから降りた。 すぐ目の前にローテーブルが置かれている。二人で住むには狭いアパートだ。俺が転がり込んでいるから当然なのだが。 ベッドに取り残されて、サナが朝のルーティンワークへ歩みだしたのを見つめていた。どんなに行きたくないと言っても、どんなに調子が悪くともサナは仕事へ行く。 社畜と言っても過言ではないくらいに打ち込んでいるから、見ているこっちは足のつま先に力が入りっぱなしだ。今すぐ駆けよってやりたいと思ってしまう。 それを必要とされているわけもないくせにだ。
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