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トイレに入って、すぐに洗面台に行って、歯を磨きながら弁当を作っている。
もはや、歯を磨いているのか弁当作りに夢中になっているのか謎だ。ぼんやり見つめていることにも飽きて、ようやくフローリングに足を滑らせる。
すぐ目の前のローテーブルについて、リモコンを取った。電源を押せば、当然の如く朝のニュースがなだれ込んできた。
社会は常に忙しない。俺の時間軸とは全く別次元にあるように思えてならない。
俺の世界は、高3の夏で止まったまま、壊れている。
「リッキー」
「ん」
「昨日のご飯、超おいしかった。ありがとうね」
「当然」
「味付けナイス、さすがレシピの王様」
「はいはい」
サナの褒め癖はだいたい慣れているから、特に気にするつもりもなくチャンネルをセットした。
サナが好きらしい朝の情報番組だ。
サブのキャスターが月ごとに変わるから、俺の壊れた世界にも月の更新を通知してくれる。
サナは意外にミーハーなところがあって、人気の俳優が出ると、朝の支度に気合が入る。今回は推していない芸能人なのだろう。
木目のローテーブルには大学ノートが置かれている。
『死ねない夜へ』と横書きで丁寧にタイトルを付けられているそれは、すでに4冊目になっていた。
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