今日も死ななかった

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途中まで捲った形跡がある。ど真ん中に置かれているから、テーブルの脇に捌けて立ち上がった。 狭いキッチンに向き合っているサナの後ろに立って、振り返るサナに告げる。 「代わる」 「お、マジで、サンキュー」 「はやく着替えてこい」 「ういーす」 サナが作りかけた弁当と向き合って、卵焼き用のフライパンを取り出した。昨日の残り物と適当な冷凍食品を詰め込んだ小さな箱に、卵焼きは常に二つ。 入れてしまえば箱の五分の三は占領してしまう。 いつもどうなのかと思っているが、サナは無類の卵焼き好きだから、これで充分らしい。 こちらは木曜は常に昼からの外出だから、俺の分はない。 いつも俺の分があるときは、サナが白米の上に不器用なメッセージを乗せてくるから、俺も同じように返している。 毎回芸なく同じ言葉『ガンバ』の文字の形に切り取った海苔を乗せ終えて、蓋を閉じたあたりでサナが脱衣所から戻ってきた。 しっかり化粧を済ませて、スーツに着替えている。 ストライプ柄のスーツは細身の7号だ。以前着ていたらしい9号は、サイズ直しをすることなく、箪笥の肥やしになっている。そんなに痩せなくていい癖に。 一人胸の奥で呟いて、無理やりバナナをもぎ取っては、弁当を入れたランチバッグに突っ込んだ。 「ぎゃ~、やばやば、遅刻! やばやば」
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