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いつも同じ言葉を発しているのに、まるで成長しない。苦笑していたら、横からランチバッグを掻っ攫われた。動きに合わせて、俺が使わないと言ったらサナが勝手に使い始めた香水が馨る。
「リッキー」
「あ?」
「ありがと~、今日も大好き」
「はいはい、はやく行け」
ばっちりとウインクして投げキッスまで追加してくる黒髪ロングの女を追い払うように手を動かした。
サナはスーツの時、常にスカートを選んで着用している。
夏は涼しそうだと言ったら、本気のトーンで「ストッキングの苦しみで夜眠れなくなっちまえ」と囁かれた。
あれは本気でキレた時の顔だった。ストッキングは夏に苦しいものらしい。
ドタバタとうるさい。そのふくらはぎに目が行って、パンプスに足を突っ込んでいる女の腕を掴んだ。
「ぎゃっ」
「サナ」
「な、なに……!」
「脚」
「う、うん?」
「ケガ」
基本的に不注意が過ぎる。
眉間に皺を寄せた俺を見て、びっくりしたように自分の脚を見て、「うわ、どこにぶつかったんだっけ」と呟いた。
痣になっている。
サナは肌の色が白い方だから、ケガをすると目立つ。なぜそんなに障害物にぶつかるのかと疑問を投げかけてしまいたいが、すでにその理由には見当がついているから取りやめた。
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