出ていったイヌ

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出ていったイヌ

解体工事中の鳥居でミイラが発見されたネット記事を読みながら電車に揺られている。 手足を縛っていた縄が暴れたことで相当食い込んでおり、見つかった時の姿勢などから生き埋めにされたと思われるとのこと。 もしその時代に生まれていれば、快適な人生を歩めていたと思う。 気まぐれで人を殺せるほど初等的な文化では無かっただろうにせよ、それなりの理屈があれば許容される程度に殺人のハードルが低い世界が私には合っている。 真理というものは認識できないのだから、逆説的に理屈はどんなものにでも付けられるとあのVtuberも言っていたし、その事を利用する能力が私には備わっているから。 ただ、今はこの平和に満足していると自分自身に暗示をかけるためにその能力を利用している。この時代はどんな理屈よりも他人の命が高すぎる。 私にとっての2+2=5の世界。 電車がホームに入る。 完全に停車する前に立ち上がり、網棚からバックパックを降ろして背負う。 停車の振動でよろめく乗客を余所目に開いたドアから頭がぶつからないよう気を付けつつ下車する。
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