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小走りでその獣人の方へ駆けていき、背中へ手をかけようとするが体が動いて急に走り出す。背中のマフラーがピンと張りその様子のまま敷地から出て行ってしまう。
後を追うと見失うギリギリの距離で立っているのが見える。次の瞬間にはまたマントがはためくのが見えて姿が消える。同じような移動を何度も繰り返していくと朝の廃墟にたどり着いた。
西日を浴びて朝とは違った物悲しい雰囲気を帯びている。
廃墟の入口で黄色いマフラーがひらひらと動くのが見えた。
走って近づいていくがマフラーにやっと手の届きそうになる距離で駆け出されて、また追いかけっこが始まってしまう。
体を真っ直ぐに立てて、腕を短いストロークで振り、機械のように体の真下への着地を繰り返す。
その洗練されたフォームを目の前に見て、押見も試しに真似してみると今までよりも力が足に加わるのがわかる。その調子でスピードを上げてマフラーへ手を振ると爪先が少し当たった感触を感じた。
最後の曲がり角をマフラーの獣人が曲がり、それを追いかけて押見も曲がるが、そこに見えるはずの獣人の姿は無かった。
減速しながら廃墟を出て、雪の上にへたり込むように座り、白くなった息が空に昇っていくのを見上げる。
「一応見込みはあるのかな?」
廃墟の方からマフラーの獣人が落ち着いた様子で歩いてくる。
「まずは返すよ。」
目の前まで来て中継器を差し出してくる。
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