注文の多い真っ白な細長い家

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 男は頭上に参差錯落と重なり合う喬木の枝や葉や果実の隙間から差す日光を頼りに松や杉や檜の球果を求めて森を歩いていました。本当に求めるべきものを求めずに歩き続けました。諦めていたのです。けれどもこのチャンスを逃がしたら流星光底長蛇を逸すと言えることが起こりました。信じられないことに真っ白なシュミーズだけを纏い、香箱を作って花を摘んでいる美しい娘と遭遇したのです。折しも冷たい風がどうと吹きつけ、男をひんやりさせました。  彼女は男に気が付きますと、優しそうに微笑みました。男がその美しさに絆されますと、彼女はすっくと立ちあがって真っ白なシュミーズをひらひら翻しながら群れてダンスするモンシロチョウのように森の奥へ駆けて行きました。  男は思わず球果を放り出して彼女を追いかけました。俺が求めていたのはこれだったんだと心中で叫びながら。その途中で木の実を取っていた老婆に引き留められました。 「何をお急ぎなんだい?」  立ち止まった男は、息が落ち着いてから言いました。 「あの、娘がここを通りませんでしたか?」 「ああ、その娘なら知っとるよ」 「知っとる?」 「ああ、わしの孫じゃ。この森にはわしと孫しか住んでおらんからな」 「ではこの奥に家でも有るんですか?」 「ああ、あるとも。来るかい?」 「え、ええ」  男は半信半疑になりながらも怪訝そうな顔の儘、老婆について行き、老婆と娘が住んでいるという家に行くことになりました。
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