23人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
赤
「次のニュースです。我が国で誘拐を繰り返しているフロル人犯罪組織の構成員と見られる男が、先ほど逮捕されました」
不快な報道が、夕食後に新聞を読んでいた俺の耳に入った。顔を上げると、視界が白い湯気でぼやける。お茶をいれた湯呑みを両手で差し出し、テーブルの向かいで蝶子が微笑んでいた。
「覚さん、どうぞ」
「あぁ、ありがとう」
愛らしい笑顔に、思わず口元が緩む。濃いめにいれた熱いお茶がニュースでざらついた胸を温め、不快感を少し和らげてくれた。
美味しい食事と、心地よく整えられた部屋。仕事から帰った俺を迎えてくれる温かな灯。愛しい人と暮らすということがこんなにも心温まるものだとは、半年前まで想像もしていなかった。
「全く、フロルの奴らめ。悪事は自分の国ですればいいものを」
「誘拐なんて、怖いわね。向こうで強制労働させるのかしら」
「いや、奴らは我が国の国民を洗脳するんだよ。フロル国王に忠誠を誓うまで思想改造して、その上でこちらに送り返すんだ。工作員としてね」
「来年は戦後百年のお祝いなのに……」
「国交正常化なんて、まやかしだよ」
最初のコメントを投稿しよう!