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温度が違うチームで闘うことは本当に苦しい。
痛々しくさえある。
勝ちにこだわらないことは、ある意味で美徳なのかもしれないが、全力で走っているのが彼だけだと、全力でゴールを死守し、勝つことに執念を燃やして挑んでいるのが彼だけだと、私の目には映っていたのだ。
残り十秒を切ってゴールを決められ、点差は二点。
相手チームは此処を抑え込めば勝ちだと知っている。
戻りの速いディフェンスに速攻は阻まれた。
とても、彼一人では切り込んでいけない。
時間も五秒を切った。
それでも、勝つには!?
勝ちたい!!!
彼は猪突猛進、突っ込んで行った。まるで特攻兵。
デフェンスが三人、容赦なく襲い掛かる。
無謀な特攻に勝機は無い。
でも、彼が狙っていたのは自分を囮にしてのスリー。
此処しか、此処でしかもう勝てないことは明白。
私は奇跡を祈る。
バックパスに振り仰いだ彼は言葉を失った。
それを託されていたチームメイトは――。
まさか自分に来るとは思っていなかった。
虚を突かれ、キャッチミスで転々と転がるボール。
そこで試合終了のブザー音は虚しく鳴り響いた。
『ははっ、どうせ打ったって入んなかったよ』
笑って誤魔化し、健闘を讃えて肩を軽く叩くチームメイト。
あの時の愕然とした彼の目を、私は今でも覚えている。
どのスポーツもそうであるのだろうけれど、身体が人より小さい分、彼は生傷が絶えない。当たり負けしない為にも、挑む勇気は人よりずっと大きなものであるのは間違いない。
敵にぶつかって、態勢を崩してでも決められるように、私は身体を張った。
「ディフェンスになるから、ぶつかりながらシュートに行って」
当たられればこちらもかなり痛い。
ただの木偶の坊ならともかく、試合ではもっと相手も遠慮はない。
オフェンスでもディフェンスでも怖さがあるに決まっている。
そんな中、最後の一秒まで、勝ちを意識しているのは彼だけだった。
彼は負けたことが悔しくて泣くのではない。
勝ちに行こうとしないチームに泣いていた。
「チームを移ろうか?」
このままではバスケットを嫌いになるだろうと、私は他のチームの体験に行くことにした。
「凄いね……ここの子たち」
皆が勝ちたい一心だった。
技術は今のチームの方が上だろう。
けれど、情熱は遥かにこちらが上だった。
「ふはっ、あいつ。きっと、今まで天狗だったんだ。俺に手も足も出なくてギャン泣きしてた。大会でも何でもない練習なのにね」
一回、一回の練習の熱量が今のチームとまるで違った。
ある日の練習会、先生が皆を背の順で並ばせ、息子より低い子たちと高い子たちに分けた。
「バスケットは身長じゃないところを見せてやれ」
彼は低い子たちのリーダーとして試合をさせて貰うことになった。
彼以外は中学年以下ばかり。
そして、彼自身も何ら遜色なく似たような身長。
一方で対戦相手は皆が高学年。頭一つ二つ分は高い。
勝てる筈のない戦い。
「相手は舐めて掛かってるぞ。チャンスだ」
背が低いことも、学年が下なことも皆ものともしない。
胸には勝ちたい一心でしかない。
怯む者も、諦める者もいない。
誰もが『我こそは!』その意思で果敢に挑む。
「くふふっ、あいつらハイエナみたいにリバウンド取りに来るんだぜ?
高さがないから数で勝負ってわけ。凄くない?」
試合の後、息子は目をキラキラさせて、彼らを褒め称えた。
大差の敗北を予想したが、結果は僅か四点差。
ちびっ子軍団の心意気は本当に素晴らしかった。
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