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「母さん、俺バスケ辞める」
いつものバスケットスクールの帰りに、小学五年生の息子が車の中でそう零した。
私はしばらく押し黙ったまま、何も言えなかった。
彼が何故そう思うに至ったのか、手に取るように全部分かっていたから、『どうして?』の台詞も、『そんなこと言わないで』の台詞も、何も出てこなかったのだ。
彼は幼稚園児の頃よりバスケを始めたのだから、今年で七年目になる。
きっかけは、ご近所の奥さんに誘われたことにあり、彼の意志などほんのささやかなもので、私が何となくやらせてみたことが始まりだった。
最初の頃なんて、バスケットと言うよりラグビーで、ただただ微笑ましいものだった。
それでも元来、負けん気の強い性格は功を奏して、小学生の低学年を相手に何ら引けを取らないガッツを彼は見せてくれた。
「ふふっ、ボールを持ったら梃子でも放さないものだから、上のお兄ちゃんにボールごと持ち上げられてたわよ」
年齢のせいばかりではなく、それほどに彼は随分と小柄で、バスケットをするにはあまり体格的には恵まれていなかった。
小学生になってもこの五年間、ずっと彼はクラスで一番前をキープし続けている。
運動会なんかは見やすくって、大変良かったものだ。
それでも持ち前の運動能力と負けん気で、今となっては、彼はチームにとって、無くてはならない存在感を放てるようになっていた。
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