放課後バレンタイン【短編】

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 2月になると俺氏はちょっと憂鬱なのだ。  鏡の前で立つ。そんなに悪くはないような。うむうむ。ちょっと変なポーズをしていると突然背後の扉が開いた。  うおっ。 「兄ちゃん何やってんの?」 「わっちょっ、勝手に入ってくんな!」 「んなことより飯だっつの」  妹氏は俺氏のたいして引き締まってないけど、だらしなくもないような気もする上半身には全然興味を持たずにパタンと扉を閉めて出ていった。  とりあえず下は履いてて良かったと思う。  さてと、馬鹿なことやってないでとりあえず学校行くか。 「おっす時康(ときやす)おはよー」  俺氏は先を歩く栄光に彩られた時康を見つけて、駆け寄って声をかけたのだ。今日の朝日はやけに眩しい気がするけれど、それは近づく日に恐れおののく精神が見せた眩しさ的厳格ってやつで、多分いつもとかわりはない。 「利彦、おっすとおはよーが被ってる」 「まあ細かいのはいいじゃんか」  時康は俺の幼馴染だ。保育園のときから一緒。もうひとり(さか)やんっていうのもいて、そっちは小学校から同じ。なんだかんだ、いつもつるんでいる。  それにしても最近寒い。昨日の夜は雪降ったって言うし。  ちらっと時康の首周りを見るとチェックのマフラー。クリスマスプレゼントに彼女にもらったらしい。なんかずーるーいー。俺も彼女ほーしーいー。ちぇっ。  そんな俺にとって大事なイベントが迫っていた。  時康は当選確実、坂やんはギリギリ判定、俺氏圏外な感じのイベント。  バレンタインデー、まであと14日。  目の前を木枯らしがぴゅーと吹く。それに合わせて時康のマフラーがパタパタ浮く。畜生、羨ましい。  あーあ、彼女できないかな。そう思うのは毎年のことだけど。
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