イントロダクション

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 このアルダシア大陸の歴史や文化を記録するという大役に、いまだ若輩の身である私が就くというのは、おそらく後にも先にもないことでしょう。しかしこの書物は、アルダシア大陸を駆ける冒険者への手引書としても大きな役割を担うことになります。それは、大陸の外から流れ着く人々にとっても……。このため、できるだけ簡便で平易な大陸共通語(アルダシーン)で執筆を行なっています。この一冊が、あなたの良き友となることを願って。    編纂・執筆 ガレシアス=エルムート    祆歴1486年 クラクスの月 4日 ■冒険者と英雄「破軍七剣(グランシャリオ)」  今日を生きるため、名声や名誉を手に入れるため、さまざまな報酬のために危険な依頼を引き受けるのが、冒険者と呼ばれる人々の特徴です。彼らは自由と勇猛さを体現する存在として、アルダシア大陸中に存在し、冒険者ギルドという寄合を介して社会と関わっています。人々はちょっとした困りごとから商売の手伝い、学問の探求のために冒険者に依頼を出し、冒険者はそれに応えます。  冒険者が、いつからそう認識されるようになったのかははっきりしていません。歴史を紐解く限り最古の記述は、魔禍戦役時代に傭兵として雇われていた人々のものです。公的な文書に冒険者という単語が初めて現れるのは、戦役後の復興期、現在から五百年ほど前のことで、冒険者ギルドの設立と同時期です。しかし「報酬のために危険を冒す者」を冒険者と定義づけるのならば、そのルーツは恐らく、人々が共同体を形成し、やがて階級制が現れたころとも言えるでしょう。  つまるところ冒険者ギルドが設立されるまで、冒険者という職業は、不安定で、何でも屋のような、職にあぶれた人々が名乗るものでした。しかし今は、戦争の兵力として、魔物退治の先鋒として、旧文明の謎めいた遺構を暴くものとして活躍し、時に英雄と呼ばれるほどの名声を手にする者もあります。  英雄——歴史上、英雄と呼ばれた冒険者たちの中でも、一際輝く名前を持つ者たちがいます。それが、「破軍七剣(グランシャリオ)」です。今から二百年ほど前に活躍した、冒険者七人からなる旅団を、後世の人々はそう呼んで讃えました。また、七英雄、七傑衆といえば、彼らのことを指します。  彼らは誰よりも勇敢で、慈悲深く、自由だったと言われています。全ての冒険者の憧れであり、各国の歴史においても少なからず影響力を持つ存在です。おそらく四都市において、彼らの名が挙がらぬ国史はないでしょう。  彼らのようになれ、とは誰も申しません。彼らは祆神ミスルの祝福を受けた、特別な運命のもとにあった者たちであり、彼らの真似をして大胆な言動をとることはお勧めしません。冒険者とは、危険を冒す者。死と隣り合わせの日々を送る者です。これから私が記すことは、大陸の歴史であり、冒険者の歴史であり、これから冒険者になろうという人々への明日の展望の助けとなるものです。
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