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真相
森は人目につかない個室に入院となった。
血液中のヘモグロビン濃度は正常値の二割程度でしかなかった。緊急の輸血がなされたが、その治療だけでだいぶ落ち着いたようだった。
貧血さえ改善すれば、身体には問題ないのだろう。ただ、彼女の心が問題だと、前田は気づいていた。ベッドに横たわり、窓の外を眺め続ける森に話しかける。
「静かですね。眺めもいいし、落ち着いて話ができる部屋ですね」
尋ねたけれど返事はない。前田は一息ついてから続ける。
「ここなら、雨宮先生と少しだけでも、ふたりきりになれるんですね」
「……もう、見限られてますけど」
「今後、雨宮先生が主治医になることはないと思います」
「……わかってますよ」
森は深く布団を被り、頭まで隠した。
コーナーテーブルにはポシェットがひとつ置かれている。隣にはガーゼが敷かれ、その上に翼状針と点滴用のチューブ、それに駆血帯が並べられていた。チューブの中には赤黒い血液が付着している。
これらは森が倒れたとき、ロッカーに仕舞われていたポシェットの中から見つかったものだ。
「自分で血を抜いていたんですね。雨宮先生の気を引こうとして」
前田の言葉は同情を含んでやわらかい。そして森は黙することで事実を肯定していた。
「雨宮先生に、裏切られたんですね」
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