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郡山ハリー
俺は自分の顔が嫌いだ。
父親譲りのブロンドとエメラルドの瞳、母親譲りの甘いマスクと長い睫毛。
小さい頃から俺はこの顔が嫌で嫌でしょうがなかった。
周りの反応が「可愛い」から「綺麗」「恰好いい」と変わっても、相変わらず俺の評価は顔の事ばかり。
勉強だって頑張ってるし、毎日ランニングしたり筋トレしたりと密かに努力し続けている。そのお陰で学業も運動も全てがトップだ。
どれもこれも努力の結果なんだ。顔以外は―――。
顔以外の俺の努力なんて一つも認められないのに、ただ『遺伝』という名の親譲りの容姿だけが褒められる。
こんな顔、本当に嫌いだ。
俺の父親はイギリス人で十代の頃日本に渡って以来俳優をやっている。
来日した理由も俳優をやっている理由も女がらみだというのだから呆れてものも言えない。
母親も女優をしていてその理由も父親と似たようなもので、共演をきっかけに結婚したんだそうだ。
二人ともへったくそな演技にも関わらずその顔だけで芸能界を生き抜き、テレビで観ない日はないくらい売れている。
俺が小さい頃から二人はお互いを必要としていなかった。勿論俺の事も。
二人とも性に奔放でスキャンダルは絶えず、そういう意味でも世間をにぎわし続けていた。
未だに離婚しないのは俺がいるから、ではなくその方がお互いに都合がいい、という理由らしい。
そういう意味ではまだ二人はお互いを必要としてるのかもしれない。
恋に仕事にと何かと忙しい両親に親らしい事をしてもらった事なんて一つもないけれど、それでも両親ともに人気俳優だからお陰で金だけは唸るほどあり、身の回りの世話をする他人は沢山家の中にいた。
欲しいモノはすぐに用意してくれたし、寂しいなんて思う事は贅沢なくらいよくしてもらった。
だけど、俺の本当に欲しいモノをくれる人は一人もいなかった。
だから俺は沢山の人に囲まれながらも広い家にぽつんと一人、そんな風に思っていた。
俺は早いうちから他人の目に晒される事が多く、段々と自分の立ち位置みたいなものが分かるようになっていった。
周りからの期待に応えるよう常に王子様のように振舞った。
人々を欺き自分を隠すくせにいつか誰かが本当の自分を見つけてくれる、だなんて淡い期待を胸に抱きながら。
*****
「郡山くん、好きです。付き合って下さい」
思考の海に沈みそうになっていたがその声ではっと引き戻される。
今俺がいるのは校舎裏の木陰。
この場所は告白スポットになっているのだろうか。
今週に入ってもう何人目なのか――覚えていないが、殆どの告白はこの場所で行われる。
そしてここは男子校だったはずで、―――今まさに俺は見ず知らずの男子生徒に告白を受けている。
小中と続く告白の嵐にほとほと嫌気がさして男子校を選んだというのに、女から男に相手が変わっただけで今もまた受け続ける告白。
内心溜め息を吐くと目の前でうっとりしたように俺を見つめる男に質問を一つ投げかける。
「ねぇ、俺のどこが好きなの?」
「え?えっと……」
と真っ赤な顔でもじもじと俺の顔をちらちらと見る男。
やっぱりな。
こいつも俺の顔が、顔だけが好きって事だよな。
途端に俺の中の感情は死んでしまう。
「―――ありがとう。嬉しいけど俺気になる子がいるんだ。ごめんな」
申し訳なそうに眉尻を下げそう伝えると、「そうだよね。うん。告白できただけでいいんだ。ありがとう」って笑顔で去って行く。
一人残され俺は、はぁ…と今度は大きく息を吐く。
こんな事ばかりがうまくなっていく自分が嫌いだ。
叫び出してしまいたい。
「俺は顔だけじゃない!俺の事をちゃんと見て!」
心の中に渦巻くドロドロとした物で胸が苦しい。
気になる子――はいるがそれを理由に断る事で大事な子が嘘になってしまう気がして、それも嫌だった。
俺のどこが好き?という問いに顔以外の答えをくれたのは今までに二人しかいない。
幼馴染である市子怜と高校の入学式の日に初めて会った山田桃。
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