28人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
市子怜
市子怜と初めて出会ったのは小学校の入学式だった。
当時のレイは明るく、何にでも一生懸命で自然とみんなからも好かれている、そんな感じだった。
最初は特にそういう人がいる。くらいの感想しかもっていなかった。
だけどある時、誰か――は忘れてしまったけれどその子が転ぶのを庇って自分が転んで顔に傷を作ってしまったんだ。
どくどくと血が流れる中、誰もが「綺麗な顔がっ!」「傷が残ったらどうすれば…っ!」なんて顔の心配をして騒ぐばかりで保健室に連れて行く事もしてくれなかった。
そこにレイが走り寄ってきて。
手を引いて保健室へ連れて行ってくれたんだ。
「傷、残るのかな―――」
ぼそりと聞こえ、こいつも顔かと眉間に皺を寄せたが、レイは意外な事を言った。
「だってさ、せっかく女の子助けたのに傷なんか残ったらその子も気にしちゃうよね。郡山の優しさにケチがつくようでなんか僕、嫌だな」
そう言って口を真一文字に引き結んだレイの目には涙がうっすらと滲んでいて、本当にそう思ってくれているのだと分かった。
レイは俺の事を心配してくれたんだ。
顔だけじゃなく、俺の事を。
初めての理解者だと思った。
レイに何かあったら絶対に俺はレイの力になる、俺だけは味方でいるってそう思ったんだ。
それ以来少しずつしゃべるようになって仲良くなった俺たちだったけど、レイの弟の千紘が入学してきて色んな事が変わり始めた。
千紘は全てにおいて兄であるレイよりも上だった。
頭脳、運動神経、社交性、親からの愛情―――。
周りの反応も千紘をもてはやし、レイの事を蔑ろにした。
あんなに明るかったレイが段々と暗くなっていく。
前髪を伸ばし顔が見えないように俯いて歩く姿に胸がぎゅっとなった。
レイは俺と同じで、そして俺とは全く違った。
親からの愛情を貰えない俺と弟に独り占めされたレイ。
本当の自分を隠し周囲の期待に応える俺。
本来の明るさを失い暗く周囲からの期待も失われてたレイ。
最初から持たなかった俺と失ってしまったレイ。
俺だけはどんな事があってもレイの一番の理解者でいたい。
だからお前が助けを求めるのなら喜んで手を貸す。
お前が何も言って欲しくないのなら俺は黙って傍で見守るよ。
だって俺はレイの事、一番の理解者で親友だと思っているから。
最初のコメントを投稿しよう!