王さまのこどもたち

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 あたしとアマーリア、エリクの3人は、いつものように王さまにおじぎした。 「ふうむ。今日はトゥイッジと遊ぼうか」  その声に顔を上げる。もじゃもじゃの白ひげに囲まれた、リンゴみたいな王さまの笑顔と眼が合った。  王さまは、猫の子を抱くみたいにあたしを片手で抱え上げると、お城の大広間に向かって歩き出す。豪華な衿かざりのすきまから、あたしは残された二人をのぞき見た。  アマーリアは悔しそう。背が伸びるまでは、アマーリアが王さまの一番のお気に入りだったからだ。エリクはまだ小さいけれど、もう少ししたらこども部屋を出て行くだろう。男の子のほうが、早いのだ。  大広間に入ると、集まっていた大人たちが王さまにおじぎをした。大きな王さまの周りに集まる人たちは、魔法使いを取り囲む小鬼みたい。  王さまが大きな椅子にゆったり腰かけると、あたしは、王さまの組まれた片足におさまった。 「始めよ」  王さまのひと声で、会議が始まった。  きりりとした声で話を始めたのは、赤の大臣だ。真っ赤なびろうどのドレスを着て、新品の銅貨みたいな赤毛を結い上げた、体の大きな女の人。  その反対側に立ち、赤の大臣の言うことに一々文句を言っているのが、青の大臣だ。赤の大臣よりすこし若くて、やせた男の人。地味な紺色の服を着て、黒い髪は貧しい人みたいに短く切っている。  二人の周りを、灰色の服を着た文官たちが取り囲んでいる。大臣たちの質問に答え、紙束や巻物を広げて見せ、会議の内容を一つ残らず書き写す。  その間、王さまが退屈しないようにお相手をするのがこどもたちの仕事だ。大臣たちの話が長引くと、あたしは王さまのひげを引っ張った。王さまはくすくす笑って、あたしの巻き毛をかき回し、わき腹をくすぐる。  こらえきれずに笑い出すと、青の大臣が振り返り、目が合ってしまった。  あたしの笑いは、すぐに引っ込んだ。青の大臣が、とても冷たい目でにらんだからだ。あたしが身をすくませると、青の大臣は視線をそらせて会議に戻った。  青の大臣は、お城の中で一番冷たくて、怖い人だ。  あたしは青の大臣が大嫌い。
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