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「東原さん、医務室行こう」  会議終了後、僕はツンドラさんに駆け寄った。本部長はチーフと話し込んで気付かない。何人かが、こちらを黙って見る。  頑固に断わろうとするツンドラさんに肩を貸すと、背後から柔らかな声がした。 「私も付き添うよ」  荻原さんがツンドラさんを見る瞳は、心から心配だと言うように潤んでいる。僕は静かに首を横に振った。その表情は可愛いのにな。 「ありがとう、でも遠慮しとく」  ツンドラさんを引っ張るように会議室を出た。断られると思わなかったんだろう、目を丸くしたあと、荻原さんは傷付いたような顔で僕を見返していた。  自律神経失調だろう、とツンドラさんの手の冷たさで気が付いていた。  医務室のベッドで横になると、しおらしく頭を下げられた。 「迷惑かけてごめん、岩本くん」  ツンドラさんの顔色が戻っていて安心する。 「うちの母親も自律神経失調で、顔まっ白にして手とか冷たくて、めまい起こしてたから。ゆっくり休むといいよ」  困っている人を見かけたら親切にすること。母はよく僕に言い聞かせていた。 「東原さん見ていたら、思い出したよ」 「……何?」 「手が冷たい人は心が温かいって」 「――ただの冷え性です」  マスクをしても、動揺した目元は隠せない。恥ずかしそうに毛布で顔を隠すツンドラさんを見守って、僕はベッド脇から離れた。  ふと思い出した。  ツンドラは永久凍土と言っても、表面の氷が溶けて、ちゃんと植物が育つらしい。  ツンドラさんと名付けた同期、上手いことを言うなぁ。   ❅ 終 ❅  
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