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「なんで笑われなきゃいけないんですか」
「ごめんてば」
小さなカフェで紅茶をご馳走になってもまだ機嫌が直らない。必死な台詞だっただけに余計腹が立つ。
「だってなんか古いドラマのセリフみたいなんだもん」
「あ」
「なに?」
「この間、それで笑ったんだ。私も」
「この間? ああ、あの時」
「なんかこれから人質に取られそうな台詞ですよね」
「あー、言われてみれば」
「でも笑うほどじゃないけど」
「でもほら、笑っちゃいけない時って笑いたくなるでしょ。あの心理じゃないの」
「かもしれないですけど、でも決定的な理由じゃないですよね」
「笑いって突き詰めるとよくわかんないんだよね。だから笑わせるって難しいって……どうでもいいや。まあ、笑ったのは悪かったわ。今日は何でも頼んでいいよ。なんだったら勉強ぐらい教えるけど」
「どうでもよくないです」
洸海は持ち上げかけたカップを止めた。眉が上がる。
「どういう意味」
冷たい声にひるんだが、言ってしまったものは仕方がない。
「なんで、追及するのやめたのかなってずっと考えててたから」
「追及?」
「この前、どうして笑ったか追及して来たじゃないですか」
「あー」
「怒ってないんですよね。じゃあ、何かなって」
「忘れて」
洸海はきっぱりと言った。
「忘れて」
もちろん忘れられるわけがなかった。だが、聞くこともできなかった。
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