冷たいひとより冷たいひとへ

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 郁は図書館から連絡を受けて予約していた本を取りに行った。全て香山洸海の脚本である。 (面白い) 流石、一世を風靡しただけある。どんな舞台だったのだろう。見たいと思った。台本だけでもこんなに面白いならこれに声が付き、息遣いが付き、衣装が付き、背景が付いたら一体どうなってしまうのだろう。 郁はスマートフォンを出すとDVD検索した。もちろん、今読んだばかりの脚本のDVDだ。もう、夢中だった。DVDはすぐに借りられた。面白いなんてものじゃない。後はループだった。散々あれこれ見て、思ったのはもったいないの一言だった。香山洸海は大事な友達だ。失いたくない。だが、こんなところで中学二年生相手に勉強を教えていいひとじゃない。 (でも、本人はもう嫌になってるんだよな) 郁はため息をついて寝転がった。例えば郁があなたが学校に行かないのはもったいないと言われて学校に行くかと言われればどう考えてもNOだ。そういう問題じゃないというだろう。 (あれ?) 違くないか? ふと洸海の言葉を思い出した。 「どういう意図で言ったのか言われたのかそれを受けてどう思ったのか。ちゃんと説明しないとどんどんすれ違っていく」 (どういう意図で言ったんだろう。どうして笑ったのって。いや、そうじゃない。聞いてどうするつもりだったんだろう。何に生かすつもりだったんだろう。単に好奇心を満たすたなら『忘れろ』なんて言わない) 郁は起き上がった。明日、洸海に言うことがある。
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