冷たいひとより冷たいひとへ

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「怒らないで聞いてほしいんだけど」  次の日、カフェで郁は切り出した。もう嫌われる覚悟はできていたがテーブルの下で握った手は完全に震えていた。 「なに?」 洸海の声は心なしか冷たい。察しのいい彼女のことだ。郁の言わんとすることをわかっているのかもしれない。 「劇作家に戻った方がいいと思う」 「郁」 「見た。洸海さんの脚本と舞台のDVD見た。もったいないって思った。だってすごかったんだもん」 さえぎられたらダメだ。もう一気にに言う。 「ずっと考えてた。なんであの時、追及やめたのかって。追及が癖だったんでしょ。劇作家の時の。なんでを突き詰めて考えて考えて話を作るんでしょ。人の心理を。だからつい聞いたんでしょ。まだ、洸海さん劇作家なんだよ。洸海さんには悪いけど、私、洸海さんの舞台観たい。今度は生で。今年受験生だから無理だけど、高校受かったら見たい。脚本も読みたい。ごめん。こんなこと。私は学校にいけないのに。でも、私が学校行かないのと洸海さんがきゃくほんかかないのはちょっと違うと思う。私は学校嫌いだけど、洸海さんはまだ脚本書くの嫌いじゃないと思うから。本当に嫌いになって無関心になったら突き詰めて聞く癖、なくなってるはずだもん。私もうここには来ない。ごめんね。私、まだまだ話したいことたくさんあるけど、聞きたいことあるけど、でも洸海さんの舞台観たい。だからごめん。ありがとう。友達でいてね」 洸海の返事も聞かずに郁はカフェを飛び出した。  春休みが始まっても郁はカフェに行かず、図書館に行った。クラスメートに会ったが、必死に堂々としたふりをした。それが、洸海に無理を言ったせめてもの郁なりの筋の通し方だった。クラスメートは話しかけてこなかった。あの日以来、洸海とは会っていない。
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