温泉

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☆リオンの故郷は黒猫というタイプの褌を愛用してます。漁師町です。  頭が割れんばかりの激しい頭痛とずっと続く嘔吐感とに襲われたリオンは途中からあまりの苦しさに意識を失った。その間自分がどうなっていたのかも覚えていない。気が付くと見慣れぬ天井をぼんやりと眺めていた。身体が重くて、胃の辺りがむかむかとした感じが僅かに残っている。 「こ……」  ここどこ? と聞きたかったのだが、思わず口に出した声があまりに掠れていて自分で自分の喉元を抑える。するとそこに硬い感触はなく首輪がなくなっていることに気が付いた。 「気が付いたか?」  起き上がる前に心配そうにリオンを覗きこんでくるジルと目が合った。  身体がずっと上下に揺れているような心地と眩暈を不審に思ながら、ゆっくりと起き上がろうとすると、ジルの大きな手がそれを優しく押しとどめた。 「もうすぐ夜が明ける。それまで横になっているんだ」 「え……」  食事をとったのは午後になるかならないかの時間だったから、あれから一晩近くたってしまったということだ。  今度こそがばっと起き上がってくらくらと眩暈に襲われた身体を、固めの寝台に腰かけたジルが抱えてもたれかからせてくれた。 「ここ、どこ?」 「覚えているか? 最後に食事とった店の宿だ。薬飲んだ後、お前急に体調を崩したからここに運ばせてもらったんだ。頭が痛いって、蹲って食べたものを殆ど吐き戻したんだ」  そう聞くと合点がいった。リオンは自分が僅かな着替えのうち使っていなかった最後の肌着一枚になっているわけと、なんとなく口元に張り付いた髪や口の中の苦みや酸味から吐しゃ物の名残の嫌な感覚が伝わって眉を顰める。 「……吐いたこと、途中までしか覚えてない。ジルが助けてくれたんだよね? 汚いもの見せて、ごめん。俺臭いね?」 「いや。そんなことはどうでもいいんだ。俺こそすまない。俺があんな薬貰ったせいで……。辛い目に合わせてしまった」  それはひどい苦しみようで、ジルですら思い出しても辛くなるほどだ。小さな細い身体を折り曲げ、真っ青な顔をしてせっかく美味しそうに食べていた食事を全て便所で吐き戻した。最後は胃液しか吐けずに苦しみ悶えた。  その間ジルはずっとリオンについていたが、涙を零しながらえずきつづける薄い背中をさすってあげることしかできなかった。  同じオメガでも壮健で身体も大きく抑制剤が良く効く体質のヴィオを見ていたから、これほどひどい副作用が起こるとは思わず高をくくっていた部分もある。こんな薬をリオンに飲ませてしまった自分自身を心の中で詰り、ひどく後悔した。 「ジルのせいじゃないよ。薬が俺の身体に合わなかったってだけだろ? 迷惑かけてごめん」  健気にそう言ってまた項垂れるリオンが哀しい。前を向き顔を上げるたびに気持ちを折られるような出来事が続いて起こる。  自分の身体の汚れが気になるのだろう。綺麗なふわふわとした白金髪がくすんでぺちゃりとなり、ジルはしっかり拭い取ったつもりだったが落ち切れていなかったようでしきりにくんくんと我が身を嗅いでまた子犬のように喉元で哀し気な吐息を漏らしている。 「身体は拭ったけれど髪は洗えなかったから、気持ち悪いか? 風呂が外についてる部屋にしてもらったから、お前が大丈夫そうならこのまま風呂に入れる。どうする? 」  せめて身体を癒してあげたいとジルがそう提案してきた。つまりはリオンの憧れである『温泉』に入れるということだ。  もうこのまま甘えてしまってもいいかもしれないと思うほどリオンは気持ちも弱り切っていて、言われるがまま、あえかに首をふった。  ジルは羽織っていたシャツを脱ぎ捨て、手早く下履きも取り去った。リオンが一瞬目を離して顔を上げたらもはや真っ裸の逞しいジルが立っていた。同性ではあるがわが身の貧相さを比べて恥ずかしく、目のやり場に困ってしまう。 ジルは警官として訓練を受けていた頃の動きが染みついていて、シャワーを手早く浴びて服を着替えるなどの一連の動作がやたらと早いのだ。腹がぼこぼこと凹凸がつくほどに筋肉で割れ、腕などリオンの脚ぐらい太いのではないかというほど頑健な裸体は部屋の暗がりでも服を着ている時よりずっと厚みを帯びてみえる。  すでに殆ど半裸に近い姿だったリオンの膝の下に手を入れて軽々と優しく抱え上げた。  部屋の構造はよくわからなかったが、ジル達の部屋は大きな寝台が一つ真ん中に置かれたかなり広い部屋に思えた。リオンの実家の居間がはいるほど大きいし立派に見えるから、店の中で吐き戻して体調を崩した迷惑をかけた店に償いも込めて一番良い部屋をとったのは明白で、またもジルに散財させたようでリオンは自分がジルにとっていかに間の悪い相手であろうと申し訳なく思った。  木製の引き戸をひいたら部屋の外には木が沢山ひかれた縁側のような部分があり、少しずつ明けてきた空の下、朝靄浮かぶなみなみとお湯を湛えた湯気の立つ泉のようなものがあった。  朝の少しひんやりした空気にリオンが細い身体を震わせると、筋肉で覆われ体温が高く寒さに強いジルの身体からは自然と湯気が立ち昇ってみえる。  木枠で囲われたお湯の中、底には白い石が沢山しきつめられていて、真ん中からお湯がこぽこぽ湧いている。溢れたお湯は木枠の筒を伝って外に流れる。ざっとそんな仕組みのようだ。  大柄なジルが長い脚で木枠を踏み越えて、いきなりお湯の中に入っていこうとしたのでリオンがやっと声を上げた。 「俺、服着たまま」 「……そうだったな。脱がせてもいいか?」  なんだか前戯を始める前のような低くかすれた声を出されてリオンはどきりとしてしまう。  リオンが頷く前にそもそも胸元が丸見えなほど緩々の綿の下着と、何故かリオンの白くふわりとした尻が丸見えの綿の下着の紐に手をかけた。  なんだか煽情的にすら見える形に、ジルもやや興奮気味に訪ねてしまった。 「これ面白い形だな? どうなってるんだ?」 「片足に通してから、もう片方の紐を引っ張って腰でねじってとめるんだ。昔からうちの地方では普通の奴だよ。泳ぐときもはくし、洗濯しやすいから。下帯っていうんだ」 「へえ、なんかやらしいな」 「!」 「あ、他意はない。この形にそう感じただけだからな」  慌てて補うがリオンがまた怯えるのではないかとジルは心配したが、そんな元気もない様だ。後ろ少し恥ずかしそうな顔をしながら睨みつけてくる元気が出てきたようだ。こういうことはゆっくりやると余計にいやらしい感じだろうから、と意識せぬようにリオンの下着を自分の時と同じように手早く剥ぎ取ると縁側にぽいぽいと投げ捨てられて今度こそ湯船に足を入れジルは、彼の長い脚の膝上まである深さを確認しながら、リオンを気遣う。 「ちょっと熱いかもな? ゆっくりしゃがむから」
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