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先の戦争で国境に近い街に住んでいたリオンの父や多くの村人の男たちは戦闘には参加しなかったものの軍の補給の手伝いなどに駆り出されて交戦に巻き込まれたり、戦後の混乱の中取り残されて夜盗のようになっていた敵兵に襲われて多くが命を落とした。軍が介入してから地域は保護されたが、リオンの父はその最後の方に命を落とした一人で、その頃リオンはまだほんの赤子だった。
その後多くの女たちは寒村の中みなで手を取り合い何とか暮らしてはきたが、戦後育った多くの子ども世代の青年たちがみな立派に成長し、近くの街や漁師として雄々しく働きに出かけて行って村を支える側に回った。リオンも将来は親友と共に船に乗って漁師になるのが夢だった。
しかし16歳の時、他の地域では15歳で行われるバース性の検査をこの地域では長い間できていなかったという、辺境伯のお声がかりで一斉に行われることとなった。
産まれてからリオンが見たことのあるアルファと言ったら、母が下女として通いで手伝いに行くお屋敷の旦那様とその奥様たち二人のオメガであって、当然自分は母や亡くなった父と同じベータであると信じて疑わなかった。皆よりちょっとだけ華奢なのは小さなころからあまりご飯が食べられなかったからだし、成長期はまだまだ残っているからそのうち背丈は伸びると思っていた。
しかし結果はまさかのオメガ判定だった。
リオンが地域の中で唯一のオメガであると知れ渡ってからは、リオンにはいくら頼み込んでも仕事を与えられることはなくなった。
リオンが華奢で力のないオメガの男で、いまだ発情期も番もない身の上で全てにおいて中途半端なため、彼を雇って後々なにか問題があったらと倦厭されたのが原因だった。だからと言って街の人を恨む気にはならない。みな生活が懸かっているので余裕がなく、なにかあって共倒れしていては自分の家族が守れなくなる。その証拠にすまなそうな顔をしてリオンに断りをいれる郷の人々の顔は嫌悪ではなく戸惑いにだけ満ちていた。
幼馴染はみな、明るく一番のしっかり者だった彼を慰めてくれたが、だからといって若い彼らにはどうすることもできなかった。今までの自分の価値観は音を立てて崩れ、リオンはこれからの村を担う若者から、一気にお荷物になり下がったのだ。
とにかくいつもいつも惨めな気分だった。大人たちも家でできるような簡単な雑用はリオンと母に回してくれて助けてはくれたが、自分たちも生きていくのに精いっぱいの村の中ではそんな手助けもいつもいつもくるわけではない。
リオンが共に育った仲良しの少年少女はそれぞれが自分の役割をこなして貧しいながらも日々充実しているようだった。次の春、親友は漁師になって独り立ちすることになり、彼と共に二人でひそかに憧れていた少女と婚約した。
リオンはそんな皆の輝ける姿を横目に見ながら、日中は隣町にある地域の中では大きなお屋敷の下働きをしている母がもらってくる、内職の服を繕う仕事をしたり、今まで通り裏庭で野菜を育てたりして細々と暮らしていこうとしていた。
そんな倹しい日々の中、ある日母が古い新聞を引っ張り出してきた。
そこに書かれていたのは、この国の彼らの住む街とは真反対にある南国の街『ハレヘ』について。
その街ではオメガにも平等に仕事が与えられ、温暖な気候の中、みなが穏やかに暮らしているという。夢に満ちた内容だったのだ。
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