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恋夢中
私は水面に浮かびながら
木漏れ日から漏れる
陽の光を浴びている。
「人魚か。湖にいるのは
珍しいな」
私は横目でそう言い放った
男を見る。
彼は獣人だった。
顔立ちや体は人間だが、
頭に狼の耳を生やし
尻尾がゆらゆら揺れている。
「ここは森の中だ。何故いる?
人魚のお前が」
「捨てられたのよ」
私は短く応える。
ゆらゆらと揺られながら
水はどこまでもたゆたっている。
そう、あんなにも愛した人間の男に。
物珍しさから愛されていたなんて
勘違いして。
尽くして尽くして面倒くさがれ。
ここに捨てられた。
「ここは海じゃない。
人魚のお前には辛いだろう。
人間になれるか。だったら俺の家に来い。
お前が気に入った」
私は、まじまじと獣人の男を見た。
「馬鹿馬鹿しい。あって間もない
ひねくれた人魚をどうしようっていうの」
「どうしようもない。一目見た瞬間
俺には分かった。お前は俺の唯一の番」
その時私の体中の血が沸騰した。
私は湖の底へ最速で潜るとそのまま急上昇して
天へと跳ねた。
そして獣人の前に《二本足で》立った。
「お前の言葉に嘘偽りはないわね。
私が前恋した男の時は薬を飲んで
大地に立った。
でも、今私は自分の意思で大地に立っている。
愛しい人よ。私の番」
そういうと、彼は私を抱きしめた。
強く強く抱きしめた。
了
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