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湖面のナルキッソス
「ふわ〜眠くなりそうな陽射しだな」
あたしは森の中を一人歩きながら
木漏れ日の暖かな日差しに
眠気が襲ってくる。
そう、あたしは旅の剣士だ。
しかも珍しい女剣士で。
そりゃそうだ。
剣士とくれば体力に技にスピード
共に男の方が有利だ。
そんな世界で生き残ってきた
あたしは珍しいと言えるだろう。
いや、運がいいと言うべきか。
(はぁ、腹が減ったな。そろそろ
飯にするか)
などと考えながら歩いていると
突然、木々が開けて湖が現れた。
「ラッキー。水を補給して
久しぶりに水浴びするか」
あたしは小さな声でつぶやく。
そしてあたりを用心深く見渡す。
そう、水辺は動物達も水を飲みに来る。
その時間帯は動物の種類によって
違ってくる。
草食動物なら問題ないが
肉食動物の場合、無駄な争いは避けたい。
だが、辺りを見渡しても特に問題になりそうな
気配はない。
「んじゃ、飯食ってさっぱりしますかぁ」
あたしは上機嫌で木々の間から
開けた湖に向っていった。
すると、パシャリと湖から音がした。
(ん?魚?)
目を凝らすと、生憎魚じゃなかった。
湖にはいつの間にかいたのか、
一人の人間の男がいた。
おかしい。先程湖には誰もいなかったはずだ。
「あ〜悪いんだけど。あたしも湖利用していいかな」
あたしは男に目線を合わせないように横を向いて
尋ねた。
何故ならその男は若い年ごろの美青年だったからだ。
しかも服もつけずに湖の中で立っている。
上半身だけが湖から出ている状態なのが
ましだった。
だが、その整った顔立ちにアメジストの瞳は
人を引き付けるには十分だった。
そんな彼はあたしを見るとくすりと笑った。
「い、いや。裸でいるのはそっちで
あたしは別に見ようとしたわけじゃないからね。
言っとくけど金は払わないよ。
そっちが勝手に裸になっているんだから!
あんた自分の美貌分かってる?
ナルキッソスばりの美しさだよっ」
あたしは何が何やら分からない言葉を
口走った。
すると青年はハハハと大笑いして言った。
「私も好きで裸でいるのではないよ。
私はこの近くの王国の第三王子でね。
魔王を倒す命をうけたのだが、
この湖で禊をすれば勇者が現れると
神殿で信託を受けたので
こうして祈っていたのだ。
そしてそなたが現れた」
そして彼はにこりと笑った。
「ありがとう、勇者。
共に魔王を倒してくれないだろうか」
あたしは真っ赤になった。
「分かったから、その前に服を着ろーっ」
・・・・・・・・
その後、魔王を倒したあたしが
ウエディングドレスを着たのは
言うまでもなかった。
了
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