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すみれ
森の中の湖。
少年と少女が水辺に座っている。
「俺は強い騎士になって、ぶくんをたてて
おまえをむかえにくるからな」
少年は少女に言った。
少女ははにかんでうなずいた。
そしてすみれの花を少年に差し出して
「神のごかごを」
と言って、少年の額に口づけをした。
それから十年後。
少年と少女の国は、
隣国と大きな戦いをしていた。
その戦いは数年に及んだ。
疲弊した両国は和議を結んだ。
その証として、両国の王女が
互いの国の王子と結婚する事となった。
森の中の湖。
立派な白馬に乗った騎士が一人
訪れた。
水辺には誰もいなかった。
騎士は、小さな箱を取り出した。
その中には、菫の花の栞があった。
騎士はしばらくそれを眺めたかと思うと、
箱を閉じて、湖へと投げた。
「王子、婚儀の時間が差し迫っています」
騎士は、いや王子は従者に軽くうなずいた。
そして自分の馬に乗ると後を振り返る事は
無かった。
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