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「しかしさっきも言っていたが、実際のところ、余程性格が捻くれていなければ、消しゴムくらいは拾ってやるものだ。だが、こういう小さなことだとしても、脳は『この人に対して親切な行動をした』と認識する」
「うんうん。続けて?」
「イキりエリートみたいな嘲笑をやめろ。だが、脳というのはそこでバグを引き起こす。親切な行動をしたということは、その人に好意を抱いているからだと。つまり自分は、この人のことが好きなのだと錯覚するわけだ」
「思い込みが激しいストーカーみてぇな思考だな」
「まぁ実際そうだからな。それを抑制するシステムが脆いのがそういった類のストーカーだ」
「けど、そんなに上手くいくものなのか?」
「これで恋人ができるのなら、今頃ストーカーなんて人種は存在しないだろうよ。これは概略みたいもので、次のステップがあるんだよ」
「次のステップ?」
「書いてあるだろ。『一緒に困ってほしい』だ」
「いやお前が手に持って読んでいるんだから、その本は表紙しか見えてねぇよ」
「時に貴様は、何か悩みがあるか?」
「恋人が欲しい」
「悩みを打ち明けるというのは、それなりにハードルがある。もちろん悩みの程度にもよるから、今日の晩飯は何にしようなんて悩みは深刻なものではない」
「今日の晩飯を何にしようって一緒に考えるなんて恋人を通り越して夫婦だけどな」
「今しがたお前は悩みを簡単に打ち明けたが、基本的に親密度によって吐露出来るか否かが変わってくる」
「じゃあ、相手の悩みを聞くことで、相手が『この人に相談しているということは、私とこの人は親密であるからなんだ』って錯覚させるってこと?」
「考え方としては近いが、それは難しいだろ? 相手と過去は変えられない」
「じゃあ、自分が悩みを打ち明ける?」
「ザッツライッ!」
「お前のウィンクって何回見ても気持ち悪いな」
「悩みを打ち明けるというのは親密度が高くなければ出来ないが、逆に考えれば悩みを聞くというのも親密度が高くなければ出来ないだろ?」
「まぁ、そうなるな」
「悩みに対して真剣に考えてあげれば考えてあげるほど、この人に好意的だから真剣に考えているんだと脳が錯覚するわけだ」
「でもそれってさっきから思ってたけど、相手が優しい人じゃないとダメだよな?」
「好都合だろ。何だお前、優しくない人と付き合いたいのか?」
「それはそれでちょっとありかもしれない」
「まぁ、お前の性癖は置いといて、だ」
「いや、それについて小一時間話すのも悪くないと思うけれど」
「一人で壁に向かって話しとけ」
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