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つまらない話題なんてない
「アインシュテルング効果というものがある」
「何だそれ。アインシュタインが考案したミスドの新作か?」
「何でアインシュタインが現代に蘇ってドーナツ屋で働いているんだよ」
「新聞に載っているかもしれないぞ。『ドーナツコンクールの賞を総なめ!現代のアインシュタイン!』みたいな記事が」
「ドーナツの偉人を出せよ。何で物理学の偉人出してんだよ」
「それで、そのアインシュタインリングってのは何だよ」
「アインシュテルング。成功体験が生み出す認知バイアスで、従来の方法に固執してしまう……平たく言えば老害の前兆だ」
「言葉が強いな。で、それが俺の恋人を作るのに関係があるのか?」
「『愛してる効果』って空耳するなぁ、と」
「くだらないこと考えてるなら早く5ページ目を読めよ。若山も気になっているみたいだし」
「私が気になっているのは、一日経ったとはいえ平然と私の前に顔を出せるアンタ達のその神経の図太さよ」
「それじゃあ早速8ページ目を読んでいくか」
「何で3ページ分飛ばしたんだよ」
「1項目で4ページ使うんだよ」
「じゃあ昨日言ってた34ページって何だ。九九も出来ねぇのかクソ雑魚ナメクジ」
「全部で5章あって、章の終わりには1ページ振り返りがあるんだよ。ということは34ページは何章だ? 答えてみろクソ雑魚ナメクジ」
「3章を参照したってことか」
「その通りだ。……へっ、どうやら、もう教えることは何もないようだな」
「あぁ。世話になったぜ」
「いやまだ1つしか教わってないでしょうが。何最終回みたいな雰囲気出してんのよ」
「前回が『恋人を落とさんとする者はまず消しゴムを落とせ』という話だったな」
「何で諺風に言っているんだよ」
「今回は『つまらない話題なんてない』だ」
「つまらない話題なんてない?」
「つまるところはアイスブレイクについてだ」
「昨日アイスブレイクは34ページ目って言っていなかったか?」
「人気御礼で改版したんだ」
「人気御礼なら改版じゃなくて重版だろ」
「アイスブレイクというとイメージするのは天気の話だろうか」
「良い天気ですね、というやつだな。けれどそこで終わってしまわないか?」
「大馬鹿が。この大馬鹿が。大馬鹿が」
「キレて語彙力が消し飛んだ松尾芭蕉かよ」
「つまらない話題なんてない! あるのはつまらない話をする愚者だけだ!」
「何で演説ばりに手を動かしてるんだよ。立候補でもすんのか」
「会話にはゴールを定める必要がある。会話のきっかけはその逆算だ」
「つまり?」
「例えば、初対面の相手の趣味が何かを知りたいとする。お前ならどうする?」
「やぁ、初めまして! 貴方の趣味を教えてね!」
「出会い系アプリのアテンドキャラクターみたいだな」
「直接的に聞くのは駄目なのか?」
「信頼関係が構築されていない状態では、割と無難な回答をすることが多い。例えばシャーロック・ホームズが好きだとしても、読書が好きと濁す感じだな」
「好きなものを否定されるのは苦痛だから、よく分からん相手には誤魔化すという感じか」
「うん……まぁ……そんな感じ……かな?」
「何で濁すんだよ」
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