ほとんどの人はエスパーではない

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ほとんどの人はエスパーではない

「このトランプの束をシャッフルしたあと、一番上のカードを俺に見えないように捲って覚えてくれ」 「なに文戸、マジックなんて出来たの?」 「ハートの7だったぞ」 「すまない。見えないように捲ってくれというのは、視覚ではなく聴覚での伝達を頼んだわけではない」 「マジックの助手としては最悪のパターンの模範回答ね」 「もう一回シャッフルして、捲ったぞ」 「そしたら山札に戻して、またシャッフルしてくれ」 「やった」 「私にも見せて」 「お前の引いたカードはクローバーの4だな?」 「全然違う」 「全然違うわね」 「んなもん分かるわけないだろ!!! エスパーじゃないんだから!!!」 「何急にキレてんだよ」 「マジシャンの失敗した時の対応としては最悪のパターンの模範解答ね」 「そんなわけで今回は倦怠期への対処法をレクチャーしようと思う」 「まだ恋人が出来てもいないんだが」 「ミステリー小説を最後のページから読むタイプなの?」 「『ほとんどの人はエスパーではない』」 「当たり前だろ馬鹿かよ」 「ほとんどの人はエスパーではない(小声)」 「…………?」 「それはウィスパーだろって言って欲しかった」 「分かるわけねぇだろ」 「そうだ。人の意図なんてものは伝わらないのが自然なんだ。しかし一方で『これくらい言わなくても伝わるだろう』と思い込んでいるのも事実」 「つまり大事なのは言語化ということだな」 「更に言えば『褒めること』を欠かさないことが重要だ」 「文戸って良い性格と良い度胸してるよな」 「アンタもね、安登」 「更に更に言えば、過程があるものを褒めるのが良い」 「過程がないものなんてあるのか?」 「前回の例で言うと、シミュレーションで俺は『美人』ではなく『センスが良い』と褒めた。理由は分かるか?」 「あぁ、どうしようもないブサイクだったからだろう?」 「デリカシーどこに捨ててきたの? 一緒に探そっか?」 「例え超絶美人だとしても顔を褒めることは推奨されない。統計によると、美人ほど自分の顔に何かしらのコンプレックスを抱いていることが多いしな」 「痩せてる女ほど『ダイエットしなきゃ』って言っている感じか」 「顔は自分が選んだものではないが、服というものは自分で選ぶものだ。例え自分が買っていない服だとしても、毎朝自分で選ぶだろ?」 「つまり、『選択』を褒めればいいのか」 「あぁ、特別気合を入れていなくても、選んだ以上、理由というものが存在する。それがその人の拘りというわけだ」 「その拘りを褒めることが出来れば最高ということか」 「左様だ」
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