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副支配人川村
ガーデンホテルズグループは地域統括をしている者を支配人と言う。従って副支配人が実質そのホテルの支配人だ。
副支配人川村と言う男は氷の様な人間だ。コンシェルジュである私を含め従業員、特にフロント、ロビー従業員は「bot川村」と言っている。ホテルマンなのに笑わない、冷たい、非情。
「沙羅さんとですか?」
私は帰り支度をしている川村に声をかけた。沙羅さんとは川村の彼女、土佐和紙職人で土佐和紙の中でも最高峰の土佐清帳紙の紙漉き職人。私の彼氏、佳人の幼馴染みで佳人の家が経営している和風カフェが二人のデートの待ち合わせになっている。
カフェと言っても海を見ながら高知の食材をカジュアルに食べてもらいたい。その思いで佳人の両親が開いたお店だ。
「佳人君に聞いたのか?」
表情を緩める事なく私に聞いて来た。
「はい、すみません。プライベートまで…」
「いや、いい。知ってる人が一人位いた方が助かる時もある」
川村の精一杯の返事だ。
「今日、私も佳人の店行きますが挨拶はしませんので」
「当たり前だ」
といい、鞄を体に追い付く様に取り上げ早速と出て行った。あんなんで沙羅さんと大丈夫なのかな?何処がいいんだろう…bot川村!
ホテル裏手の従業員駐車場から運転をしながら張り詰めていた緊張感を解き放して行く。岬の先にある海にせり出した様に立つカフェに着いた。夕暮れ時は水平線をオレンジに染める大きな夕陽を見る事が出来るが、私の仕事終わりは月明かりが照らす海面を眺める。
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