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二月。バレンタインのあるこの月は伊織先生のスタジオもそれなりに忙しい。握手会はもちろん、撮影もチョコ抱えてするし、ときにはお便りくれたファンのために手書きで返事をしたためてチョコと一緒に送ったりする。忙しくはあるが、それなりに充実している。だからこそ伊織先生のその発言には、みんなの頭にクエスチョンマークがついたのだ。
「まだみんなの認知度が足りない気がする! 」
え?と思うだろう。俺らだってそうだ。世の中のにょたチョコ男子と言えば真っ先に伊織先生のスタジオメンバーが浮かぶはずなのに。
「だから先生ね、新しいイベント考えたの! でも今回は当日みんなはお客さんだから! 」
伊織先生の思い付きのイベントとか悪い予感しかしないんだけどなぁ。
「せっかくのバレンタインの時季だから、チョコレートでみんなの彫刻を作ろうと思うの! 知ってる? 世の中にはチョコレート彫刻家がいるのよ! オホホホホ」
伊織先生がオホホと笑うと悪役感が半端ない。いや上司だけどさ。
「まぁみんなの写真を彫刻家に渡してあるから、それで作ってくれるから。芸術に触れるのも悪くはないだろ? 一応仕事の一環なので、みんなにちゃんとギャラは払うからね」
伊織先生は、女の子大好きのへんたいさんだけど、スタッフはとても大事にする。女の子のスタッフなら尚更だ。彫刻鑑賞してギャラもらえるんなら別にいいかな?伊織先生のことだ。息抜きも込みなのだろう。
だが当日まで俺らはそのチョコレート彫刻家に会うこともなく普通に時間を過ごしていた。
みんながチョコレート彫刻家の存在を気にしだしたときは、もう当日だった。
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