一日遅れのバレンタイン。

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一日遅れのバレンタイン。

携帯依存症だと思う。 ただ一人だけに対して。 その人だけ着信音を設定して、すぐに反応できる時も焦らしてみたくて、でも耐えられるのは1分が限度。 義理を全面に出した本命チョコ、今年こそはと用意したのに、持って行ったのに結局渡せなかった。 土曜日は部活があって、その後練習試合があった。 ギリギリで勝てたチームは大いに盛り上がり、声をかけることは憚られた。 何より、一生懸命頑張って、汗だくになったあいつの笑顔をプレゼントに貰った気がした。 休みの日曜日にわざわざ誘うなんて、あからさますぎて出来ない。 そしてバレンタインの日曜日が終わりそう。 甘いのがあんまり得意じゃないあいつのために選んだビターチョコ、涙ぐみながらやけ食いした。 日付けが変わる。 いつも月曜日は会える一週間が始まるから嬉しいのに、憂鬱でしかない。 あと1分で月曜日。 その時あの、唯一設定していた音楽が鳴った。 秒で携帯を取り開く画面。 『土曜日、練習試合来てたろ』 『なんで声かけなかったんだよ』 既読スルーなんて駆け引きはもうしない。 『勝ったの見てた。おめでとう!』 『盛り上がってたから声かけられなかったんだよ』 すぐについた既読。 少し間が空いて、またメッセージが届く。 『お前から貰えるかもってちょっと期待してたんだけど』 『くれねーの?』 でかいくせに犬のような懐っこさで同級生にも後輩にも人気があるくせに。 きっとたくさん貰ったくせに。 『たくさん貰ったんじゃないの?』 『まあ…ゼロじゃねーけど…』 『甘いのそんなに好きじゃないでしょ?』 『いーから!くれんの?くれねーの?』 空けた箱を見る。 ひと粒だけ残ったビターチョコ。 とうしても捨てられない諦められない自分の気持ちのようで苦笑いした。 ラッピングして明日渡そう。 一個かよって笑うあいつの顔が浮かぶ。 一日遅れのバレンタインは、いかにも私らしいでしょ。 好きだよとは言えないけど、ありったけの好きを込めて渡すから。 『心して食すように』 そう送ったメッセージは瞬間で既読になり、尻尾を振って喜ぶ犬のスタンプが返ってきた。 ねぇ、そういうとこだよ。 これ以上無駄にライバルを増やさないでよ。
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