ありったけです。

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ありったけです。

「ねーえ」 「何」 「好き?」 「何が」 「私のこと」 「当たり前じゃん、だから一緒にいるんだろ」 「そうだけどさ〜、言ってくれたことないじゃない」 「照れくさいんだって」 「それでもさ〜、聞きたいも〜ん」 「そういうのはさ、ここぞって時に言うって決めてんの」 「一人で勝手に決めないでよ〜」 「もう、うるさいよ」 「じゃあいつ?ここぞって時はいつくるの?」 「ん〜〜〜〜……あと十年くらいしたら?」 「えっ、そんな待たなきゃいけないの!?」 「あっという間だって」 「私おばさんじゃんか…」 「俺だっておっさんになってんよ」 「りゅうちゃんはいいよ、おじさんになってもたぶんイケてるもん」 「あいかだってきれいなままだって」 「何て言ったの?ねぇ、もう一回言って!」 「残念〜巻き戻し機能はついてません」 「けち〜……」 「いいからもういい加減背中からどいて。暑いし仕事しにくい」 「はぁ〜〜〜い。あ、晩ごはん親子丼でいい?昨日お母さんから卵貰ったから」 「ん、いーよ。え、ちょっと待って、どっちのお母さん?」 「え?りゅうちゃんのお母さん」 「あぁ、そう」 「じゃあね〜」 鼻歌を歌いながら台所で玉ねぎを切る音がする。 息子の俺ですら扱いにくいあの母親と連絡を取り合い、一緒にランチだ買い物だと出掛け、何かしら譲り受けてくるあいかは無敵なんじゃないかと思う。 「5年後くらいに変更するか…」 通帳を開いて着実に貯まって行く金額を見てまた改めて決意する。 初めての告白とプロポーズは同じ日に。 それまでの分もとびきり込めて。 口癖のようにあいかがくれる好きを栄養に、育ちに育ったありったけの愛を半分お前に返すから。 まぁ、5年後をお楽しみに。
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