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幼なじみとの恋②
泣き腫らした瞼が重い。
いつもの半分くらいしか開いていない。
朝、私の顔を見た幼なじみは盛大に噴き出し、私の顔を見る度に飽きることなく噴き出す。
昨日のことは夢だったんだ。
こいつが私のことを好きなはずがない。
泣きすぎたせいなのか、寝不足なせいなのか、それとも全部のせいなのか、頭痛がする。
混んだ電車のドアに何とかへばりついて乗り込んで、瞼が重いのも手伝って目を閉じてガタンゴトンと揺れる電車に身を任せていると、幼なじみが腕を掴んだ。
「あぶねー」
「……はい」
「んだよ、はいって」
掴んだ腕を下に引かれ、おでこが幼なじみの肩にぶつかる。
ごちんと音が耳の中に響いて歪めた顔、後頭部が大きな手にぐっと押さえつけられた。
「頭いてーんだろ。そのまま凭れてろ」
「………はい」
男くさい制服。
電車の大きな揺れにおでこが生地に擦れてざりっと音を立てた。
マンションに先に住んでいたのはうちの家族。
小学校に入る直前、幼なじみ一家が引っ越してきた。
二つ上の姉の下僕にされ、いつも泣きべそをかきながら姉について回ってた。
さきちゃんと呼べなくて、さあちゃんと呼んでいた可愛い幼なじみは、その内咲と呼び捨てにし、そして中学に入ってからは名前でも呼んでくれなくなった。
他人行儀に名字で呼ぶようになって、高校に入ってからまた咲と名前で呼んでくれるようになった。
幼なじみの中で何があったのか。
聞いてみたいけど、知るのが怖い気もする。
昨日初めての告白をして、初めて振られた今の私では処理し切れない。
でも。
きっと腫れた瞼とぶさいくすぎる顔を隠すために、
そして駅に着くまでの僅かな時間でも休めるようにしてくれているのだろうこの優しい幼なじみを無くしたくない。
何も言わないで。
聞かないから。
まだ幼なじみの二人で許して……
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