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幼なじみとの恋➂
卒業を目前にした2月。
幼なじみと別々の道に進むことが分かったのはついこないだのこと。
あれからも私達は何も変わらず幼なじみで、変わらない距離で。
やっぱりあれは夢だったのだろうかと思い始めていた私に、こうたが告白されたという情報が入った。
慌てて走り帰ったマンション、自分の家に帰るより先に幼なじみの部屋のインターフォンを押していた。
『んだよ、まだ帰ってねーのか』
「開けてこうた」
重たい音を立てて鍵が開き、こうたが顔を出す。
黒いパーカーはこうたのお気に入りで、あの日も着ていた物。
カンガルーポケットを掴んで詰め寄った。
「告白されたって本当!?」
「はえーな、もう聞いたのか」
「本当なんだ…」
で?とポケットを掴んだ手を剥がすようにしながらこうたが言う。
「なんでそんな血相変えて聞きにきてんの」
「え………なんで、だろう」
「おい」
なんで来たんだろう。
何をしに、何を聞きに来たんだろう。
幼なじみなのに。
「告白はされた。じゃーな」
締まりかけたドアの隙間に脚を入れて止める。
今、このドアが閉まってしまったら、もう幼なじみにも戻れない気がした。
「なんだよ、まだ何かあんのか」
「………、や」
「は?」
「い、や、だ」
絞り出すように出た言葉は、ありったけの本心だった。
「は?」
「いや。やだ。こうたは、私のことが好きなんじゃないの?もう好きじゃないの?それとも好きじゃなくてからかっただけなの?」
「お、い、待て。ちょっと中入れ」
一度大きく開いたドア、腕を引かれ玄関の中に入れられた。
「その人と、付き合うの?」
「お前さっきから何言ってんだよ。お前と俺は幼なじみなんだろーが」
「それを!その幼なじみを壊したのはこうたじゃないっ!」
ずるい。
ここで泣くのはずるい。
わかっているのに、堪えたい時ほど溢れてしまう。
せめて見られないようにと俯いた顔から玄関の床に大粒の雫がポタポタと落ちていき滲みを作った。
「……当たり前だろ。幼なじみでいるのはいい加減飽き飽きしてたんだよ」
掴まれた腕にぐっと力が入った。
ゆらゆらと揺れる視界がさらに揺らいだ。
「言っとくけどな、お前だからな。俺をただの幼なじみにしたのは」
「ただの、って、何よ…」
「ことあるごとに幼なじみを強調しやがって。幼なじみでいるしか価値がねぇみたいにしたのはお前だろーが」
「そ、んなの、仕方ないじゃない!幼なじみなんだから!」
「だから!俺は違うつってんだろが!」
大きな声に身体が跳ねる。
こんなに辛そうな、怒ったような声を聞いたのは初めてだった。
「どーゆーこと?ちゃんと話して」
またぐっと腕を引かれ、脱ぎ散らかすように靴を脱ぎ、こうたの部屋に連れて行かれた。
ベッドにどさりと腰を下ろしたこうたを見下ろすように私は突っ立ったまま。
「あーくそっ!だから、俺は初めから好きなんだよ!」
「え………」
「幼なじみになるより先に俺は、その、そっちのが先だったの!」
「うそ……」
「それをお前が幼なじみ幼なじみって牽制したんだろーが!このバカ!」
こうたが照れているのも初めて見た。
赤い耳たぶ、伏せた目元も赤い。
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